枚方と奈良のバイオリン工房で指摘されていた、ビオラの弦長足りない問題。テールピースを短いものに交換することで、解決を試みることにしました。

バイオリンの長さ(ボディの長い方の辺)は数百年前から固まっていますが、ビオラの長さは固まっていません。それはビオラの担当音域と、ビオラを弾く姿勢に原因があります。
ビオラを、バイオリンとチェロの中間の音域を受け持つのにふさわしい大きさに作ると、演奏しにくいのです。バイオリンの姿勢ではでかすぎて弾けません。個人的には、チェロ寄りの姿勢で奏法を模索すればよかったのに、と思うのですが、「小さめに作ってバイオリンの姿勢で弾く」に落ち着きました。実際バロック時代には、様々な大きさや形のバイオリン風チェロ風な弦楽器が、様々な姿勢(今では淘汰されてしまった姿勢もある)で弾かれていました。

一旦サイズと姿勢が落ち着いたあと、不満を再燃させている音楽家もいます。ワーグナーは一部の楽曲に、ヴィオラ・アルタ という楽器を指定しています。でかくて、チェロに近い深みのある音色だったようです。そんな話を知ってしまうと、見てみたい!聴いてみたい!と思いますが、現物はもうありません。いま生き残っている古楽器ではヴィオラ・ダ・ガンバなどがあります。

現在ビオラの大きさ(ボディの長い方の辺)はメーカー品だと、38.5、39.5、40.5、41.5、42.5から選べるようになっています(単位はcm)。 バイオリンやチェロに比べて、特注で作ってもらうことも多いので、中古で探すとこれらのサイズに当てはまらないものもあります。
一般的に日本では、女性は39.5、男性は40.5にします。大きければ大きいほど深みのある音がするのでプロは大きめを選びます。枚方フィルのトップの女性は 42を持っています。神戸フェニックスフィルの背の高い男性で39.5という方もいます。小さめのほうが体が楽、大きめのほうが音色がいい、2つの条件から自分に合うサイズを選ぶことになります。小柄な中学生のために38.5を検討したことがありますが、音色がバイオリンみたいで、ビオラらしさがありませんでした。


私がビオラを買ったのは20年前(それ以前は借りていた)ですが、体の楽さを重視して、39.5にしました。バイオリンにお金をかけたかったので、量産品のイーストマンにしました。大きいビオラはいい音がするな~と羨ましく思うこともありましたが、せいぜいホテルラウンジでの四重奏くらいしか音色の発揮させどころはなかったので、あまり気にせずこれまで来ました。

それが去年、なにげにビオラ本体をながめていた枚方くずはの大島さんが、「テールピースを短くして弦長を長くすれば、もっと深みのある音がするかも」と言うのです。そう言われて見ると、イーストマンのテールピースって随分長くね?と思いました。A線なんか、駒のすぐキワから色布になっています。ビオラにお金をかけるつもりはなかったのですが、大島さんは根拠が明確でないことは口にしない人なので、大島さんがそう言うならやってみよう、と決めました。

テールピースを交換したあとA線とC線を張り、弦の下に駒を入れて起こします。(左→右)

用意してもらったテールピースは119mm。イーストマンに付いていたのは127mm。エンドボールをはめる穴がイーストマンの方が奥にあったので、差し引き 6mmほど弦長が長くなりました。ナット~駒、駒~テールピースが6対1となるよう、駒と魂柱の位置を調整して、できあがりです。

貸しだし用 分数バイオリンのテールピース交換や、バイオリン工房へ行けない生徒さんのテールピース交換は、教室でもしています。音色にかかわるパーツなので、大事な楽器のテールピースは職人さんに触ってもらいましょう。
2020.10.28 アジャスター内蔵テールピースへの交換

イーストマンのテールピースはツゲだったのですが、短いテールピースは黒檀とローズウッドしかなかったので、ツゲに近いローズウッドになりました。それにより楽器全体が数mg重くなり、比重が高まりました。体的には軽いほうがいいのですが、音色的には重い方が深い音が鳴ります。比重が軽いと明るい音がします。

ペグ・テールピース・エンドピンのフィッティングパーツ3点の素材は、主に黒檀・ローズウッド・ツゲが使われます。材料の値段、見た目の美しさ、音色への影響などが考慮され、同じ素材に統一して装着されます。昔のスズキバイオリンのフィッティングパーツが黒い(黒檀)のは、一番安いかったからです。昨今は初心者用バイオリンセットでも見た目で競争する必要があり、ローズウッドが使われることが増えました。弦や弓は安価なものがセットされています。


はたして音質・音量は良くなったのか? 工房で弾いてもよくわからず、帰宅してレッスンルームで弾いてみました。以前より鳴ってる気がする。
ビオラの生徒が来たときレッスンで弾いてみると明らかに違います。音量が大きく音色もふくよかです。生徒も「先生って前からこんなに上手だっけ?」という顔をしています。たった 6mmで!? オケの練習会場で弾いたらもっと違いが出るかもしれません。楽しみです。