楽器と楽譜があればバイオリンの練習はできます。しかし練習を有意義なものにするには、あったほうがよいアイテム(道具)があります。節約したつもりが、上達のスピードという点で、損をしているかもしれません。同じ時間をかけるなら、道具をじょうずに活用して、中身の濃い練習をしましょう。

(1)チューナー

バイオリン・ビオラという楽器は、左指を置く位置で「音程」を決めなければなりません。置く位置が1mm違うだけで、音程が狂います。
ですから開放弦が正確に調弦されていないと、全ての音程に影響します。開放弦が正確でない状態で練習しても、音感がきたえられず、左手のフォームも整えることができません。

まず1つ必要なのは、卓上型の電子チューナーです。調弦のための道具としては、最も使いやすく、正確です。
耳をきたえるために、調子笛(ピッチパイプ)やピアノを併用してもらうこともありますが、卓上型の電子チューナーは必ず要ります。
KORG、YAMAHAなどのメーカー品が定番です。

アマオケに入るなどしてバイオリンを外へ持ちだすことが増えると、チューナーが楽器ケースに入ることが大事になってきます。メトロノーム機能が付いていない小さめ卓上型の電子チューナーもあります。オケで調弦するならクリップ型チューナーが便利です。
2021.12.20 クリップ型チューナーの選び方・使い方

たまにスマホのアプリをお使いの方がおられますが、以下の理由でお勧めしません。
・専用の機器でないため、パッと使えないから(子供に渡せない)
・スマホの電波に暴露するから(神経の動きが阻害されるから)

チューナーの選び方や使い方については、こちらの記事にもあります。
2020.04.30 バイオリン・ビオラの調弦方法

(2)メトロノーム

メトロノームは、ネジを巻いて使うアナログ式と、電池で動く電子式があります。

家での練習で使うのに最も実際的なのは、チューナーとメトロノームが一体になった卓上型の電子メトロノームです。バイオリンを習い始めてすぐメトロノームを使うことはありませんが、一体型を買っておくとゆくゆく便利に使えます。

実は一番お勧めのメトロノームは、アナログの大きいもの(写真右)です。電子チューナーと違って、打点の間隔がカンペキでないところ、ゆらぎがあるのがいいのです。音楽は、カンペキに一定のものではありませんから。ネジがゆるみきって針が止まったら休憩の合図、そのアナログ感がいい、と深山尚久先生も言っています。
アナログで持ち運びできる小型タイプ(写真左)もありますが、大型のものより機構上 刻みが不安定です。

メトロノームもスマホのアプリでありますが、チューナーと同じ理由でお勧めしません。

アナログのメトロノームたち



それでは以下に、メトロノームを使った練習事例を3つ挙げます。メトロノームを使うときの共通するコツは、メトロノームに合わせるのではなく、メトロノームが自分に合わせているように感じることです。

①基礎練習にて

基本の練習をするときはテンポ60でやります。ロングトーン/スケールをテンポを60で反復していると、楽譜に書かれた速度の数字に対する感覚が育ちます。54であれば60よりちょっと遅めだな、112なら60の中に2拍入れたらいいんだな、といった具合です。

実は、テンポ60感覚を育てるいちばん手っ取り早い方法は、時計の秒針を見ながら弾くことです。メトロームと違って、止めるという作業がいりません。時計から視線をはずせばいいだけです。

●ロングトーンの基本はひと弓4拍。メトロノームのカチカチ4つで、弓の端から端まで、行ったり来たりします。

このとき弓の速度が一定になっているかチェックするため、弓に等間隔で印をつけます。ひと弓4拍の練習ならば、4等分して3カ所に印をつけます。メトロノームの音と印の通過タイミングがあっているか、ちらちら見ながら弾きます。

両端でスピードが落ちるので、端の手前で速度を上げて、一番速い状態で折り返します。弓のまんなかは速さを少しゆるめる感じにすると、結果としてずっと同じスピードで弾くことができます。
折り返すとき、弦と弓の角度が直角になっていないと、速いスピードでターンできません。直角を体得するのが先です。

弓の動く速度を一定にすることができれば、それを基準にして、曲を弾くとき速くしたり遅くしたりできます。
ひと弓4拍ができたら、ひと弓6拍、ひと弓8拍などに挑戦してみてもいいでしょう。印は貼りかえないでそのままでいいです。

●スケールもひと弓4拍。1巡目は全音符で、2巡目は2分音符で2つの音をスラー、3巡目は4分音符で4つの音をスラー。左指はゆっくりきちんと動かせれば、速く動かすことは、速く動かす練習をしなくても出来るようになります。

②独奏曲、1stVnパート

メロディラインを歌うように弾く練習にも、メトロノームは役立ちます。

メロディラインは、拍感ぴったりではありません。粘ったり伸びたり、拍に追いついたり、しているのが自然です。歌謡曲や演歌を聴いてみましょう。
しかし伸びっぱなしでは「ただずっと遅れているだけ」になってしまいます。ナチュラルな伸び方やゆらぎ方の練習をメトロノームでしましょう。
カチカチ音をベース/ドラムのビート音だと思って、4小節単位や8小節単位の大きなくくりの中で辻褄が合うように、伸び縮みさせながら弾く練習をします。

最近テレビで 松田聖子さんのアンニュイな「スイートメモリー」を聴きましたが、ほぼすべての打点がベースラインより後ろでした。そこまで引っ張るかー! というほど拍より後ろにずれていましたが、加減の巧みさに舌をまきました。とっても素敵でした。

③オケや室内楽の曲にて

全音符から突然8分音符になったり、4分音符が3連符になったり戻ったり、変化があるとテンポ感がわからなくなります。自分は同じテンポで弾いていると思っていても、弾けていないことがあります。メトロノームでトレーニングした経験がなければ、弾けてないと思った方がよいでしょう。
”うちのメトロノーム壊れてるんだ” という迷言をはいた方がおられますが、そんなことはありません。

(3)譜面台

譜面台を買わずに、窓枠に置いたり、楽器ケースの中に立てたりしていないでしょうか?
それでは譜面との距離や高さを最適にできません。楽譜が読みにくいと、それだけ脳みその処理能力をたくさん使います。そうなると「左指を動かす」「弓を動かす」という行為に使える割合が減ります。

レッスンでは家での練習に、鏡を使うことをお勧めすることがあります。鏡はたいてい壁面の決まった場所にあり、それを使おうと思ったら、自分や譜面の位置を鏡に合わせなければなりません。そのためにも譜面台は必要です。

(4)鏡

鏡は必要不可欠なアイテムではありませんが、鏡なしで練習するのと、鏡をうまく使って練習するのでは、上達の速さが違ってきます。同じ時間・お金・エネルギーをかけるなら、より少ない時間で上達したいものです。

①無意識の使い方

鏡に映った自分の姿を見ながら練習するだけで、弾きやすくなることがあります。先生の目線で言うと、明らかにフォームが良くなることがあります。
変化が少ない生徒さんもおられますが、良くなる生徒さんは枚挙にいとまがなく、悪くなる生徒さんは今のところゼロです。

2021年の春コロナで数カ月お休みして復帰された生徒さん、大人の初心者さんですが、演奏フォームが良くなっていました。どんな練習をしていたのですか? と尋ねたら、ずっと鏡に向かって弾いていたそうです。

②意識した使い方

それらしく出来ているか。
さまになっているか。
という目線で、自分の姿を見ましょう。
それは全体に対してでもいいし、部分でもいいです。

鏡があると、鏡の中の客体を、自分が主体として見ることができます。
客体であれば、いつもの先生の姿、テレビで見るバイオリン奏者の姿のように、見たらよいのです。

♫自分が、バイオリニストの役をもらった俳優だと思ってみるのも、手です。
ハリウッド女優のメリル・ストリープが バイオリン講師を演じた「ミュージック・オブ・ハート」という映画があります。メリルの身体の動かし方は、プロのバイオリニストの特徴をよく捉えていました。

♫部分を見るのも効果的です。
左手首や左親指は、自分の眼でダイレクトに見ることができないため、もっとも効果があります。右手首の回転、肘の動きなどもお勧めです。自分の弾き方は、さまになっているでしょうか?

♫左指を置いているところ、弓が弦をこすっているところは、ダイレクトに見たくなる場所です。
しかし「ガン見」してしまうと、眼の焦点が左よりの至近距離に固定され、周辺や全身の筋肉へ悪影響があります。鏡に映っているのを見ると、焦点がすこし遠くになります。

③弦と弓の交差角度

弓が、うまく引っ掻けるときと引っ掻けないときがあって、その両者の違いがわからない。そんな場合は、鏡を使って弦と弓の交差角度をチェックしてみましょう。

うまく引っ掻けないところで弓を止めます。弦と弓の角度を変えないようにして鏡を見ます。鏡に映すのは1方向ではなく、多方向から見てください。
弦と弓の角度を変えないように動くには、身体感覚が必要です。そうでないと身体の向きを変えているあいだに交差角度が変わってしまいます。

(5)椅子

座ると、立って弾いていたときとは また別の身体感覚になります。立って弾く練習、座って弾く練習、両方やるとベターです。レッスンでは跪座(きざ)の姿勢もやります。

椅子は、座面が少し高めで、浅く腰かけられるものがいいです。
腰かけた姿勢では、尾骨が足裏の代わりになります。
尾骨からスクッと頭頂部まで立っているイメージです。
脚は付録と思いましょう。脚のどこかに不要な力が入っていると、尾骨から上の身体を邪魔します。

現代人は、骨盤が後ろへ倒れすぎていることが多いです。人によって度合いが違いますが、少し前へ起こして上体をゆらゆらさせよい場所をさぐってみましょう。座高が一番高くなるところが目安です。

立ったり座ったりしながら弾く練習も有効です。レッスンで教える立ちあがり方、座り方は、アレクサンダー・テクニークから取り入れています。これが出来るようになると、弾くときの身体の自由度が増します。

椅子を使ったやり方以外にも、歩いたり、片足づつになったり、左右に傾けたりねじったり、身体を動かしながら弾く練習をしてみましょう。

左と後ろが金属ミュート。右がゴムのミュート。

(6)ミュート、消音器

家族や隣家に気をつかいながら練習しているならミュートを使いましょう。ミュートは音質が少し変わってしまうし、楽器の振動※を押さえつけることにもなります。しかし気がねなく練習できるメリットの方が大きいと思います。

※木でできているバイオリン・ビオラなどの楽器は、振動を与えるほど良く鳴るようになります。楽器に振動を与える機械、エイジングマシンもあるほどです。

ミュートは大きく分けて、ゴム製のものと、金属製のものがあります。ゴム製は消音力は高くありませんが、音質があまり変わりません。金属製は音質は良くないのですが、音量はかなり小さくなります。
夜遅くにしか練習できない場合などは、金属製の出番です。金属製で最初に登場したのは、駒の上に置くタイプですが、その後駒から落ちないようネジ止めできるタイプなどが出てきました。

20年くらい前から販売されているタイプのものなら、ネットで買うなどしても大丈夫でしょう。目新しいものは、実物を試してから買う方がいいです。

マグネットをゴムでくるんだ、駒をつつむようにして装着するミュートがあります。弦と弓の接点が見える、分数(1/2くらい)からビオラまで兼用できる、などの利点がありますが、見た目めのわりに音は小さくなりませんでした。

(7)弦と弓を直角にたもつ道具

弓が道具にぶつかって強制的に真っ直ぐにさせられますが、「まっすぐ弾ける身体感覚が育つ」ようには思えません。自主的に家で使っていた生徒が何人かいましたが、効果はありませんでした。レッスンに持ってきてもらって弾いている姿を拝見しましたが、役に立っているようには思えませんでした。
「まっすぐ」の感覚は、弓の毛で弦に触れるところに集中することでしか、育たないのではないかと思います。