家での調弦が正確でなくても、週に1度レッスンに行けば先生がピシッと調弦してくれる。それでずっと来てしまった方はおられないでしょうか? アマオケでの一斉調弦ができない方も、この機会に学びなおしてみましょう。
電子チューナーを使うときは442Hz になっているか見ましょう。うっかり↑↓のボタンに触ってしまい変わっていることがあります。調子笛や音叉も442Hzではないものを買ってしまっていないか、確認しましょう。
アジャスターが付いていると子供っぽい? へたくそだと思われる? 一流の演奏家で4弦アジャスターを付けている人も、探せばいます。ビオラはしばしば見かけます。
うちの教室で一番 調弦のうまいビオラの生徒は、アジャスターで調弦します。彼女はペグの利点、アジャスターの利点、両方を知った上でアジャスター調弦にしました。それぞれの特性を知って、自分にとってベストな方法を選びましょう。
2020.04.09 ペグで調弦するか、アジャスターで調弦するか
調弦はバイオリンはADGE、ビオラはADGCの順番で行います。
[1]アジャスターでの調弦
(1)ペグの位置を決める
アジャスターのネジを最後までゆるめ、ペグで少し低めの音程に調弦します。KORG や YAMAHA の電子チューナーであれば、大きな●メモリの2~4つ低いくらいが目安です。
(2)アジャスターの動かし方
次にアジャスターのネジを巻いていきます。
左腕を右腕と自分の間に入れ、開放弦を弾きながらネジを回します。体幹や楽器の位置・弓の軌道が変わらないように、左腕を入れましょう。この姿勢を取るときの体の使い方も練習のうちです。
この姿勢が難しい場合は、
①右手でアジャスターを回す
②楽器は置いて(すべらない材質の上に置く)、弓で弾きながらネジを回す
③弾いて音を出すのではなく、弦をはじいて音を出す
などの方法があります。
③は、バイオリンを構えた姿勢でもいいですし、肩から降ろしてギターのように抱えたり、置いてもいいです。
はじく音は、すぐ減衰するため聴きとりにくく、音程も弾いた場合とすこし違ってきます。できれば弾いてください。
[2]ペグでの調弦
ペグ調弦が上手か否かは、楽器の上手さと必ずしも相関関係にありません。体が小さく、腕が短い方ほど難しい。大きなビオラのペグ調弦は大変です。
(1)ペグがスムーズに回るようにしておく
ペグがスムーズでない時の対処法は、ペグが固くて動かない時、ペグが緩んで止まらない時と同じです。ブログのあちこちに書いていますが、以下の記事を参考にすると良いと思います。
2022.03.06 バイオリン・ビオラのペグがゆるむ時
(2)ペグを回しやすい向きにする
音程がピタリと合う手前くらいが、最も力の掛けやすい傾きになるように、しておきます。新品の弦は、伸びて落ち着いたときにそうなるようにします。
この過程はとばしてもいいのですが、力がかけやすいペグの傾きになっているほうが楽に調弦ができます。ペグの傾きを直すには、弦を巻きなおす必要があります。弦を交換するとき、ペグの傾きを考えましょう。
巻いた角度をわずかに(10度)元へ戻したいだけなら、8割ほど弦をほどいて、既に巻かれている弦や弦の先端を踏ませると戻ります。一旦反対側へ巻いて遠回りさせると、もうちょっと戻ります。数十度以上変えたい場合は、9割ほどいて、弦の先端を押すか引くかします。
(3)ペグの動かし方
ペグを動かすときは、楽器側へ押し込みながら回します。ペグの芯は先端ほど細くなっているので、押し込まないで回しているとだんだん浮いてきます。(2)ペグの傾きが悪いと、押し込みながら回すことができません。
ペグ手前へ回して、音程を少し下げます。電子チューナーを見ながら、弾きながら、ペグを向こう側へ回して音程を上げていきます。合ったと思ったところでペグを止めます。弾いたときの音程をチューナーで確認してみましょう。
低い位置で止まってしまった場合は、チューナーを見ながら左手を止めるタイミングを 少し後ずらしにする必要があります。
大きく狂っている弦があった場合、調弦が済んでいる弦も再確認しましょう。例えば、D線を合わせたあとのG線が、調弦前かなり低かった場合、G線を合わせたあとのD線は音程が下がっています。
[3]電子チューナーについて
(1)電子チューナーのタイプ
電子チューナーは大きくわけて、置き型とクリップ型があります。
最初の1台は、置き型を買ってください。最も一般的で信頼性の高いメーカーがKORG、YAMAHAです。後々の練習を考えてメトロノーム機能がついているものがいいです。メトロノーム機能のないやや小型のタイプ(写真左)もあります。
メトロノーム機能もついた電子チューナは大きい(写真右 W11cm H7cm D15mm)ので、シェル型(三角形)の楽器ケースには入らないことが多いです。シェル型でも Super Light だったら入るでしょう。
クリップ型(写真中央)は、空気伝搬ではなく個体伝搬(物体が振動する)音を拾うので、オケで調弦する場合に向きます。置き型より、ハードもソフトもやや壊れやすい印象です。
置き型のチューナーは周囲の音も拾ってしまいますが、コード&クリップの別売り品を使えば、クリップ型チューナーと同じになります。クリップを駒のE線側の横にはさみ、反対側の端子をチューナーに挿します。コード&クリップの純製品は高いのですが、安いものでも使えます。
スマホのアプリを使っている生徒さんもおられますが、バイオリン教室としてお勧めしていません。
・子供に使わせられない
・専用でないので、パッと使えない
・体に悪い
(2)電子チューナー購入時の注意点
バイオリンを始めとするオーケストラの楽器は、現在442Hzが標準ですが、電子チューナーには442Hzに設定できないものもあります。バイオリン・ビオラ・チェロの専門店で売っていたり、箱や取説にバイオリンに対応と書いてあるものは大丈夫でしょう。
より気をつけたいのは、クリップ型チューナーのクリップの形状です。ギターやウクレレ、管楽器など、楽器によりクリップを付けたい箇所はさまざまです。取りつけ後に液晶画面を向けたい方向もさまざまです。
元来それぞれの楽器に合わせて、クリップ幅・クリップ形状・液晶画面のむく方向がことなる商品が売られていたのですが、最近兼用できると宣伝されている品が増えてきました。そうした品は、バイオリンに合わないことがあります。
例えばバイオリン用とチェロ用は、本体部分が同じで、クリップ部分が違います。専門の楽器店の店頭で、実物を見ればわかります。
2021.12.20 クリップ型チューナー
バイオリンとビオラは兼用できるとされていますが、「バイオリン用だけどビオラも使えるでしょ」と思われている可能性があります。バイオリンに最適なクリップは、ビオラには挟めないかもしれません。ビオラ奏者さん、とくに大きなサイズのビオラを使っている人は、実物を試してから買うほうがいいと思います。
ほかの道具も、「バイオリン用だけどビオラも使えるよね」という安易な売られ方をしている品を買うと、ビオラに合わないことがあります。これを避ける方法は、店頭で実物を試してから買うか、信頼できる販売者(店舗・メーカー)を選ぶことです。
肩当てで、バイオリン・ビオラ兼用のものは存在しません。
顎当ては、木製のお皿の部分は兼用することがありますが、金具は違います。バイオリンに適した金具は、ビオラに付けるとグラグラします。
[4]耳を使った調弦
電子チューナーは簡単で正確で便利なのですが、目で合わせるので「音程」「音感」力は鍛えられません。
アマオケでは、コンマスのA音に合わせて調弦します。これは実際にバイオリンのA音に合わせる練習をしなければ、鍛えられません。
発表会やコンクールでは、ピアノのA音に合わせなければなりません。これも実際にピアノと練習しなければ、できるようになりません。
実際にバイオリンやピアノの音を相手に調弦の練習をする機会は得られにくいと思いますが、耳を使った調弦の練習が日頃からできないか考えてみましょう。
(1)チューナーの電子音
電子チューナーには、ピー という音が出せる機能があります。しかしこれはお勧めしません。合わせにくい上に、合わせるコツを習得しても生かせる機会がありません。
(2)ピアノ
身近にピアノがあるなら、ピアノと合わせる調弦の練習をしてみましょう。発表会や友達との遊びなど、ピアノと弾く機会は誰にでもあり、実際に役立ちます。保護者さんがピアノを叩いてあげると子供のやる気もアップします。
1人でやるときは、一番右のダンパーペダルを足で踏んだまま鍵盤をたたきます。音が持続するので、その間にバイオリンの調弦をします。合ったと思ったらペグ/アジャスターを回す手をとめて、バイオリンとピアノを同時に鳴らしてみます。微妙に合っていない場合、バイオリンの音程が上がりきっていないことが多いです。
耳元で聴こえる音は、実際より高めに聴こえる傾向があります。ピアノの響きの幅の、上の方に合わせるつもりで、アジャスター/ペグを止めるタイミングを後ずらしにしましょう。
(3)調子笛=ピッチパイプ
EADGの音が出る、簡易なハーモニカのような器具です。(下の写真の左) ビオラ用はありません。
私が幼かったころ、子供たちは皆これで調弦していました。当時はステンレスの重たいものしかなく、口にくわえ唇で挟んで良い音を出すのも修行のうちでした。現在の材質はプラスチックやアルミなど軽く、くわえやすくなっています。
音程はアバウトです。それでも4弦の音程を脳裏に刻むのには役立ちます。
(4)音叉
上の写真の右。二股になっている方で、その辺の硬いもの、机の角などをコンッ!と叩き、そのあとすぐ反対側の丸い数珠のようなところをバイオリンの表板に当てます。A音が響きますので、それを記憶して調弦します。合うまで繰り返します。
バイオリンではなく響くところならどこに当ててもいい。頭に当てると頭蓋骨に響きます。
置き型の、小さなマレットで叩く音叉もあります。持つ音叉は、バイオリンから離すと音が消えてしまいますが、置き型はしばらく鳴っているので合わせやすいです。音が美しくて心地よく高級なおもちゃのようです。値段は高いですがインテリアにもなり、やる気が増します。
私は小学校低学年くらいまで調子笛、中学年くらいから音叉を使っていたように記憶しています。
(5)Aから、DGEを取る
家でひとりで練習するときの、耳を鍛えることができる最も現実的な方法です。A線は電子チューナーで取り、他の3弦を耳で合わせます。
まずA線からD線を取ります。
①A線とD線を同時に弾きながら、D線のペグ/アジャスターを回す
②音程を少し下げた状態からスタートし、だんだん上げていく
③耳で聴いてぴったりの位置より、わずかに高くする
④D線をチューナーで確認する
このとき③でぴったりと思う位置で止めると、④の針は少し低く表示されます。それは純正律だからです。
2023.01.27 AからDは高めに取ります 純正律と平均律
D線が合ったら、次にD線とG線を同時に弾いてG線を合わせます。合わせ方はD線と同じです。
最後にA線とE線を同時に弾きながら、E線を合わせます。このときはぴったりと感じる位置にします。
そんな微妙な音程わかるわけない、と思われるかも知れませんが、初心者でも感じとる生徒さんはおられます。曲の音程も教本をこなしていけば良くなっていくように、調弦の音感も練習すれば良くなっていきます。
(6)AからAを取る
ひとりでは出来ませんから、友達どうしでやる、レッスンで先生にお願いする、などの方法を考える必要があります。
隣の弦からチューニングするときとは違う、別のコツがいります。ピアノのAと合わせるのとも違います。
①442Hzで誰かにAを出してもらう
②音程を少し下げた状態からスタートし、だんだん上げていく
③耳で聴いてぴったりの位置より、わずかに高くする
④1人づつA線を弾いてみる
バイオリンを交換して弾いてみる
チューナーで確認してみる
耳で聴いてぴったりのところで止めると、音が上がりきっていないことがあります。
④で、相手のAと自分のAが合っているように聴こえるのにチューナーで測ると違っているばあいは、自分のバイオリンを相手に渡して、2つのバイオリンを代わる代わる弾いてもらいましょう。
2人同時にAを弾くと、にごった響きになって微妙にズレていることがわかります。2台のバイオリンのAが合ったときは、自分の出している音が消えてしまったような、相手の音に吸い込まれてしまったような感じがします。
アマオケは、ペグ調弦の格好の練習場です。
①コンマスがAを出したら、皆がAを弾きだす前にその音程をとらえてチューニングを開始
②全体の音が鳴り止んできたら、自分にだけ聴こえるくらいの小ささでAを弾いてみる
③まずい!と思ったらアジャスターを回して合わせる
アジャスターは、みんながAを弾いている最中に上げ下げしても、音程の変化を聴き取ることができません。アマオケの一斉チューニングは、ペグ調弦が向いているのです。