肩当てに悩んでいませんか? 肩当ては沢山ありすぎて、どう選んだらいいか分からない。どう調節したら最適なのかも分からない。そんな場合の手助けになれば幸いです。

肩当てが気になったら、まず顎当てを見直しましょう。顎から胸までの距離は、顎当ての高さ+楽器の高さ+肩当ての高さです。だから顎当ての高さと肩当ての高さは、相関関係にあるのです。

首から左腕にかけてが ゆるむと、右の運弓も楽になり可動範囲が上がります。これまで出来なかったことが出来るようになります。顎当て・肩当てが合っているか、時々チェックしましょう。

逆のことを言うようですが、肩当てはこだわり過ぎると泥沼にはまります。あきらめ、踏んぎり、「キミ(肩当て)が私に合いなさい!」という気合いも必要です。眼鏡とおなじ。

1.まず顎当てから
 (1)顎当ての高さを確認する
 (2)顎当てのタイプ
 (3)顎当ての選び方
 (4)顎当ての脚とエンドピンについて

2. 肩当て
 (1)ブリッジ型の高さと幅について
 (2)ブリッジ型の材質別の特徴
 (3)パッド型

まず顎当てから

顎当ては最初からバイオリン・ビオラにくっついています。バイオリンにくっついている付属品( 顎当て・テールピース・ペグ・エンドピン) をフィッティングパーツと呼びます。肩当て・松脂などは付属品と呼ばれます。

 ※メトロノーム・弦・弓・ケースなども、付属品と呼んだりします。
 ※肩当てまで含めてフィッティングパーツと呼ぶこともあります。
 ※フィッティング3点というときは、テールピース・ペグ・エンドピンのことです。これらはデザインを統一するとバイオリンがおしゃれに見えます。

フィッティングパーツは簡単に取りはずせないので、付いてるものを使うもんだと思いがちですが、交換しても良いのです。

(1)顎当ての高さを確認する

自分にはどれくらいの高さの顎当てが合っているか、確認しましょう。
分数バイオリンやビオラは、顎当てが高すぎることが多くあります。
反対に身体の大きな人は、顎当ての高さが足りていないこともあります。

まずバイオリンの、下のエッジの中央を、左の鎖骨のぐりぐりの上に乗せます。肩当ての無かった時代、奏者はバイオリンをここに乗せて弾いていました。ほんの100年前のことです。
肩当てのある今は乗せなくてもいいのですが、ここが離れすぎない方がいいです。触れるか触れないかくらいの距離が、安定する位置です。
バイオリンをその位置にしたとき、鎖骨~顎のあいだを埋めるのが顎当て。バイオリンの裏板~胸のあいだを埋めるのが肩当てです。

ストレートネックにより、鎖骨~顎が広がりすぎていることがあります。そのばあい、顎当ての高さをぴったりにしてしまうと、ストレートネック状態を助長してしまいます。顎当ては少し低めにして、身体の見直しに取り組みましょう。

私はバイオリンが鎖骨に触れていて、鎖骨に痕(あと)が付いています。深山尚久先生には、痕が付いている方がいい、と言われました。バイオリニストは顎の左下にもアザができますが、物理の法則からすれば、楽器の上ではなく下にアザができるほうが自然です。

(2)顎当てのタイプ

顎当てのタイプは、大きく分類すると以下のようになります。

①テールピースの左に脚があり、顎当ても左にある
 スズキ、カウフマン、クライスラー
 (左下の写真)

②テールピースの左に脚があり、顎当てはテールピースの上にのびている
 スチューバ、ドレスデン
 (右下の写真)

③テールピースの左右に脚がまたがっているが、顎当てはテールピースの左側にある
 ガルネリ、ストラド、チューリッヒ
 (左下の写真)

④テールピースの左右に脚がまたがっており、顎当てもテールピースの上にある
 バーバー(オーレンフォーム)、フレッシュ、チットマン
 (右下の写真)

⑤1本脚、顎当てはテールピースの上にかかっている
 SAS、ウルフ社のもの

(3)顎当ての選び方

お皿がどの位置に来るかと、お皿の高さが、顎当てを選ぶときに考えるポイントです。位置と高さは相関関係にあり、お皿が中央に来るものほど高くなります。

顎当てを選ぶのは、肩当て同様、実物を試さなければ難しいです。顎当ては肩当て以上に、利益率が低く、顎当てを見直そうとする人も少なく、フィッティングも難しいので、様々な顎当てを置いてある楽器店はなかなかありません。顎当てを交換したいと頼むと、店頭のバイオリンに付いているものの中から選んでください、と大抵言われます。

顎当ての悩みナンバー1は、高すぎることです。
①のタイプが、高さが最も低いです。①は世の中にあまりないので、②を削ってもらってもいいと思います。
ビオラ用には、かなりペッタンコのものがあります。

肩当てが低すぎる場合、顎当ての底辺にコルクを足すと、数mm上げることができます。

2020/10/26 顎当ての交換や高さ調節

高さだけでなく左右の傾斜も大事です。左右の傾斜はコルクで調節することもできます。
②③は、テールピース側が高く、反対側が低くなっています。この傾斜は、合わないという声を聞くことがあります。
⑤SASは、左右の傾斜が調節できるモデルです。

前後のカーブも大事です。手前の縁が、中央より高いと挟みやすいですが、その差がありすぎると首を痛めます。どちらかと言えば平ためが良いというのが、これまでの経験で得た結論です。
しかし平たいと挟んで楽器を保持することがしにくく、体全体を使ってバランスで保持することが求められます。しかしその方が体に優しくて健康によく、老いても楽器を弾き続けることができます。

昔からあるモデル、主に欧州やインドなどの工房で職人さんが削っているものは、お皿のカーブが1点1点違います。購入するとき注意してください。モデル名を指定して買っても、欲しかったものと違ったりします。

私の経験では、ピッタリ!フィットするものより、ハンドルの遊びのように合わない隙間が多少ある方が、長時間弾いても疲れません。左右や前後の傾斜も、あまり細に入らず ”だいたいまあこの辺で” という感じで選ぶ方が、時間もムダにならず良いかと思います。

③④のオーバーテールピースの顎当ては、顎当ての底辺とテールピースが接触してしまう場合があります。これは顎当て側を削れば解決します。顎当てに削る余地があるか購入前に確認しましょう。

(4)顎当ての脚とエンドピンについて

脚(クランプ)の形状は大きく2タイプあります。2本の脚が、コの字につながっているタイプと、独立しているごついタイプです。独立しているものは、ヒル型といいます。左上写真の手前クランプがヒル型です。
気に入っている顎当ての、クランプだけを交換することもできます。

脚(クランプ)の位置も2パターンあります。二脚とも顎当て側にあるタイプと、テールピースをまたいでいるタイプです。楽器への影響を考えると、テールピースをまたいでいる方がいいです。中にボトムブロックと呼ばれる補強材が入っているからです。
楽器の健康が一番と考える職人さんは、二脚とも顎当て側にあるタイプを付けたがりませんが、弾く私たちにとっては体の健康が一番です。体に一番楽な顎当てを選びましょう。

脚は金属で、当たっている場所が痛いことがあります。特に小さな子供さんは痛がることが多いです。そのばあいは何かでカバーしたり、顎当てを変えたりします。金属アレルギー用に、ウルフ社には合皮カバーが付いている顎当てもあります。ウィットナー社にもプラスチック製の顎当てがあります。(右上の写真) 

金属が首に当たらないよう、ヒル型の2脚の幅が、通常の倍ほどの広さになっているものもあります。③タイプでチノ、④タイプでフレッシュフラットワイド、という顎当てがあります。左上の写真はチノです。

脚の金具の締め方が強すぎると、楽器を締めつけたり、顎当てのコルクが楽器にへばりついて取れなくなります。弱すぎると弾いているとき外れてきます。コルクを新調したあとは、コルクがへたりやすいです。


エンドピンも痛いことがあります。
バイオリンを弾く操作性を高めるには、エンドピンと首はフィットさせます。しかしエンドピンの頭頂部に、ペグのデザインと合わせた小さな装飾が付いていることがあり、これが首に当たると痛いのです。痛い場合は、我慢しないでエンドピンを交換しちゃいましょう。エンドピンは木製ですから、装飾を削りおとすこともできます。

小さな子供さんは、エンドピンそのものや、顎当ての金具を痛がることがあります。バイオリンのレッスンは、顎当ての脚やエンドピンを痛がらない年齢からのスタートにしてもいいと思います。

弾き心地を左右する大事な部品なので、積極的に確認して、合っていなければ交換しましょう。

2.肩当て

顎当てがOKなら肩当てを選びましょう。ほとんどがブリッジ型ですが、パッド型もあります。

響きが悪くなるからと肩当てをしたがらない方もおられますが、運弓を安定させることができれば良い音色が出せます。肩当てが無くても操作性に支障がないのは、身体感覚によほど優れた方のみです。ブリッジ型の方が安定しますが、パッド型のほうが響きは良いことが多いです。

肩当てをすると身体が気持ち悪いばあいは、無しにしてもいいと思います。私も気持ち悪く感じることがあります。しかし肩当て無しで弾いていると、その不安定さから、変な力が入ってきます。肩当てを無しにした瞬間はすがすがしいのですが、時間の経過とともに却って弾きにくくなります。
身体が気持ち悪がる方へのお勧めは、ブリッジ型以外にパッド型やタオル肩当てを用意して、肩当てを付けたりはずしたり、肩当てをとっかえひっかえしながら弾くことです。
※タオル肩当てについては ③パッド型 を参照のこと。

顎当て同様フィットし過ぎないこと。
高さはピッタリより少し低めのこと。
遊びが必要です。

先に言ってしまいますが、一番無難な肩当ては KUN Super、一番お勧めは HAYATEスタンダード です。

(1)ブリッジ型の高さと幅について

肩当てを選ぶとき、最も大切なのは自分の胸に触れたときの居心地です。胸のどの位置に触れるかで、居心地のよさが大きく変わってきます。肩当てHOMAREが注目されているのは、触れる位置がこれまでになかったタイプであることも理由のひとつです。
胸の来てほしい位置に収まってもらうには、幅が小幅に調節できるものがベターです。KUN Original か KUN Super だったら、Superを選びましょう。

もうひとつ大切なのが高さです。ブリッジ型は高さが調節できるものが大多数ですが、できないものもあります。高さの上限と下限も様々です。ネジ部分が長い別売りのパーツが買える肩当てもあります。(上の写真の、右のパーツは、Pedi カーボンの別売りパーツ)

(2)ブリッジ型の材質別の特徴

広く使われているのはプラスチック。軽くて安くて、壊れやすいです。ウレタン部分を削ったりもできます。
カーボンの方がプラスチックより軽くて響きがいいのですが、価格は高く、更に壊れやすいです。

数十年前の肩当ては、高さや幅が調節できない鋼タイプが多かったです。( (2) 肩当て タイトル下の写真)
いまある鋼ベースの代表的な肩当ては、WOLFでしょうか。(上の写真)
重たいですが、フレームを曲げたり、ウレタン部分を削ったり、加工できます。(写真左下のものは、かなり加工しています。)

木製のもの(標題の写真)は音質が良いと言われます。音色で木製をえらぶならマッハワンでしょう。
でも身体が楽かどうかが一番大事。音質にもっとも影響を与えるのは、結局「弾き方」だからです。そう考えると重さも大切な要素です。

木製の肩当てで気をつけたほうがいいのは、同じモデルでも形が違う点です。ビバラムジカなど、ロットが違うと同じモデルとは呼べないくらい木製部分の形が変わります。

Belvelin社 Shoulder Cushion 大中小(右上)
ZEN-48(右下)

(3)パッド型

パッド型でお勧めなのが、Belvelin社のShoulder Cushion です。大中小とあります。やや高さがありすぎ、カーブもきつめなので、カッター等で削ると良いでしょう。ブリッジ型がごつ過ぎて合わない子供にも、使いやすいです。

Belvelin社からは Shoulder Pad という丸いタイプも出ていますが、四角い ZEN-48 のほうが良いと思います。いずれも小さめの分数バイオリンにお勧めです。
大きな輪ゴムで止めたり、ゆるい接着テープで裏板に貼ったりする肩当ては、ほかにもあります。高さ、素材のクッション性、取り付け方で選ぶといいと思います。

自作のスポンジ・タオル肩当もよく用います。市販のパッド型より安定することがあります。キッチンスポンジ・ハンドタオル等をバスマットの滑り止めシートでくるんで、輪ゴムで止めただけです。高さや幅が調整しやすく、小さな分数バイオリンに便利ですし、しっくりくる肩当てがない大人の生徒さんに使えます。

ブリッジ型肩当て無しにトライするなら、滑り止めシートでくるんだハンドタオルを楽器と身体の間に押し込むと、楽器を支えやすく操作性が上がります。