眼と動作(バイオリンを弾く)の関係

眼で見ることが「情報の入力」だとすれば、体を動かすことは「情報の出力」です。音符を読んで、バイオリンを弾く。視覚ではなく聴覚から入力することもできますが、情報の入手・持ち運びを考えると、眼からのスムーズな情報入力は、バイオリン上達のための大切なカギの1つです。

体の乱れが、眼を見えにくくすることもあります。体の状態が見えやすさを左右する体験は、多くの生徒がしています。中学生アイちゃんの首の歪みを取ったあと、バイオリンの弾きやすさの変化を尋ねたら、彼女は「楽譜が見やすくなった」と答えました。こうした事例から、体の状態が、見やすさに影響していることが分かります。

また眼の使い方がよくないと、体の動きを邪魔します。眼で情報を読むとき、最適でないメガネを通してだったり、必要以上に眼球を力ませたりすると、100%の出力が得られません。

眼は勝手にモノを見るのではなく、「見たい」という気持ちが視覚を起動させます。眼と心と体はつながっているのです。

体や心を変えるのは大変です。小指はまるくするよう先生に何度注意されてもなかなか直せませんし、くよくよする性格はなかなか変えられません。しかしメガネの作り方や使い方を変えることで、見やすさを変えるのは、体や心を変えるより易しいです。

視覚のストレスを減らすことができれば、動作・考え方・行動・気持ち・健康にいい影響を与えることができます。本来持っている才能を発揮することができます。

わたしの眼&メガネ歴

4歳で左の斜視の手術。
中学に入ったころ効き目の右が近視・乱視になり、メガネをかけだす。
中距離~長距離が見えるメガネを、手元を見るときから遠くを見るときまで使う。必要のないときは外している。
成人してからコンタクトレンズを20年使う。

2011年アレクサンダー・テクニーク深海みどり先生の紹介で、大阪 江坂の田村知則先生と出会いました。それまでメガネは1つで済ませていましたが、田村先生の話を聞き、「オケ楽譜用」「読書用」2つを作りました。
半年後 眼球がゆるんで視力がもどり、「読書用」が「遠く用」になってしまいました。しばらく遠く用1つで済ませていましたが、2013年 改めて「読書用」「オケ楽譜用」を作りました。

2020年「オケ楽譜用」が見づらくなってきたように感じ、眼の状態が変わったのではと考え、作りなおすことにしました。江坂は予約が殺到してお困りのようだったので、奈良のお弟子さんのところへ行きました。
できるだけメガネはかけっぱなしで、と田村先生から言われていましたが、私はかけっぱなしだと違和感があって、必要なとき以外ははずしていました。同じことを言われたので、かけっぱなしは違和感があるんですと話すと、ダメですと強く言われました。

2021年「読書用」メガネが壊れ、以後読書は裸眼でするようになりました。元々メガネのフレームが顔にかかるが嫌いで、レンズを通した見え方の違和感も嫌いで、私にとってメガネは文字や音符を読むために仕方なく付けるものでした。だから裸眼で読書しても、字の見え方は悪くなったけど、メガネを付けたり外したりの手間がなくなって、「読書用」を作ろうとは思いませんでした。

2024年、大好きな読書をするときの眼が辛くなってきました。「読書用」メガネを作らなければ視覚器官に悪影響があると感じました。どこでメガネを作ってもらうか、メガネ屋さんを探しながら考えていました。田村先生は、つけっぱなしは違和感があるんですと話しても、頭ごなしに否定はされませんでした。大きな温かさのある人でした。江坂に電話すると三カ月待ちになっていました。

先生の辿られた道筋

古武術の雑誌に掲載されたインタビューから、田村先生がどのような道筋を辿ってこられたのかを再構成しました。

この世界(検眼)に入ったとき、視力を2.0にしてあげても「見てる感じがしない」「見えない」という人がいた。良い眼とは、視力が高い眼ではない。では何なのだろう?と考えたとき、仕事柄 眼に問題をかかえた人としか会わない、良い眼を知らないことには目指す方向がわからない、と気づいた。

1980年 阪急ブレーブスの選手たちの検眼をする機会を得た。視力はみな1.0以上で、視力と活躍度に相関関係はない。だが両眼視が優れてるor優れていないというモノサシで見ると、選手としての能力に差が出ることがわかった。また両眼視に特徴のある選手は、尿酸値が高いなど、健康状態にも問題があった。検眼で、活躍できる選手と できない選手が分かるようになった。しかしどうしたら両眼視をよくしてあげれるか、という方法論がないと、困っている人を救えない。

日常業務に取り組みながら研究しているうちに、眼と心と体は切り離せない、ということが分かってきた。現実に辛いことがあって心が弱いと、眼が外側へ逃げる。外側へ逃げた眼を、レンズや手術で補正するのが対処療法。心を強くしたり、辛いことの改善に取り組む(そこから去るのも選択肢のひとつ)のが根本療法。

そしてレンズの処方、眼の使い方の指導で、多くのプロ野球選手や市井の人々を救っていかれるようになりました。

問診と検眼

まず現在持っているメガネをチェックしてもらいます。現在使っているのは奈良で作ってもらった「オケ楽譜用」1つ。そして使っていない「遠く用」。これは2011年に江坂で作った「読書用」です。ずっと車の免許更新のときだけ使っています。これらのメガネを点検し、少し問診した田村先生は、読書のときメガネはあった方がいい、もう少し視力は戻るかもね、と言いました。眼にかかる負荷・眼圧が減れば、病気にもなりにくい、と。

近年オケの楽譜も見えづらく、「読書用」より「オケ楽譜用」を作りかえるべきか迷っていました。少し視力が戻ってくれたら「オケ楽譜用」もそのまま使えます。ちなみにオケで弾くとき、座っているのと反対側のページはだいたい暗譜しちゃいます。
乱視による近距離の見にくさは、加齢により増してくるそうです。読書用メガネが壊れたとき裸眼でも平気だったのは、今よりちょっぴり若かったからでしょうか。

「オケ楽譜用」メガネには遠近両用が入っていましたが、田村先生いわく、遠近両用はよくないそうです。なんとなく使いづらいと感じるのはそのせいでしょうか。今回 遠近両用の希望はなかったので詳しくは尋ねませんでした。

眼の検査は11年前よりさらにブラッシュアップされていて、新しい測定器や、手作りっぽい新兵器もありました。田村先生はご高齢ですが柔軟な思考力は健在。助手の女性と二人三脚で、レンズの処方に必要な情報をてきぱきと集めてゆきます。こんな場所が各市町村に1カ所づつくらいあれば、日本国民の眼はどれだけ楽になるでしょうか。

顔面の温度分布の写真では、両眼の上の内側に力みがあることがわかりました。眉間にシワを寄せるあたりです。その写真は、筋肉がゆるんでいて温度が低いと濃紺、温度が高いと白く写ります。

「度数はほとんど入れないので、日常生活でかけっぱなしで違和感はないと思う。でも かけっぱなしでなくてもいい」と言われました。11年前は「かけっぱなしを推奨」だったのに。クライアントの声に耳をかたむけ、進化されてきたのだと思いました。

手前から読書用、オケ楽譜用、遠く用

わたしの視力と、乱視と斜視

●近視は、近距離を見すぎることで、眼球が奥へ伸びて楕円になり、遠距離を見るとき焦点が結べずにぼやけてしまう状態です。
乱視と斜視で実力以下の見え方になっており、視力は運転免許証が取れるくらいある、と言われて驚きました。乱視と斜視を補正した眼で、片目づつ視力表を見ると、0.7あたりまで読めます。

●乱視は、眼球が奥以外の方向(一般的には左右)へ伸びた状態。そのため単に焦点が合わないのではなく、視界がひずみます。田村先生によると、年齢×出来事によって、どの方向に伸びるか変わるとか。
私の右目は、上下に伸びて縦長になっている珍しいケース。中学生に入ったころ乱視が判明して、初めてメガネを作りました。そのため子供時代の様子や出来事について細かく聞かれます。視力悪化の要因がわかれば、可逆性を考慮して、今より見えるようになっていくメガネを作れるからです。

●子供のころ、視力悪化に影響をがあったと思われる出来事は、2つあります。
ひとつは斜視の手術です。私は外側を向く左目を、内側へ向ける手術をしたそうです。眼球の周りには6つの筋肉があり、外側を向いている眼ならば、内側の筋肉を短くしたりするのだと思います。
子供の斜視の手術は、最近は昔ほどしなくなったとどこかで聞きました。ささいなことで起きたり治ったりするからです。

両目でモノを見ている状態から右目を隠すと、モノが右へ動きます。左目はそれが楽なのです。生徒の楽譜を見るとき、生徒の左側からのぞきこむのが楽な理由がわかりました。体の片方に過緊張があるピアニストが、子供のころ厳しい先生がそちら側にいたのが原因だとわかった、との話も聞きました。

西洋医学的には「両眼視できるように斜視の手術をする」と考えますが、田村先生の見解では「斜視の手術をすると両眼視しにくくなる」そうです。私の眼は、手術をしたにしては、両眼視ができているのだそうです。
両眼視=1つのものを2つの眼を使ってみることにより、奥行きが知覚できます。奥行き知覚ができるからスポーツができ、家事ができ、バイオリンが弾けるのです。視覚に奥行きがなかったら どれほど生きづらいでしょう。奥行きがなく周辺視野がない近距離の物体=スマホを長時間 見ることによる影響は、はかりしれません。

また子供のころの出来事として、意識を解離させるクセがありました。幼稚園へ上がるまでは非常に可愛がられたようですが、両家とも高学歴の家系で、幼稚園・学校へ行くようになると他人との比較がはじまりました。父の仕事が大変な時期とも重なったようで、両親はストレスからほんの少し暴力をふるったり食事を制限したり。日常的に「できのわるい子だ」と揶揄されていました。また相性の悪いことに私はひどく感受性の高い子でした。

メガネ屋さんの探し方

江坂の予約は大変取りにくいです。また誰もが江坂の近くに住んでいるわけではありません。そしてご高齢であることを考えると、自分の眼の主治医になってもらうことは難しいでしょう。

①自分の生活圏内にある、チェーンではない個人経営のメガネ屋さんを、店外からHPから観察してみましょう。若い店主さんだと、自分の考え方を整理したHPを持っていることがあります。店外からも、雰囲気や意気込みは伝わってきます。

②店主さんがいる混んでない時間帯に立ち寄って、どんなメガネフレームが置いてあるか見てみましょう。安すぎる、高すぎるメガネを目立たせているメガネ屋さんは、ちょっと不安です。江坂は15~20千円のフレームが中心です。

③フレームについて質問してみましょう。レンズのラインナップを確認し、どのあたりがお勧めなのか聞いてみましょう。江坂のレンズはお任せで3万円です。

④検眼だけしてもらってメガネを作らなくてもいいか、聞いてみましょう。検眼だけ、というサービスをしてくれないお店は、やめましょう。検眼だけしてもらうのが無料のお店も、ちょっと不安です。江坂は、メガネを作ると検眼が無料になります。

検眼だけが無料でも、フレームやレンズが安くても、眼が見えることはお金で買えません。眼の病気になれば、お金と時間がかかるだけでなく、もれなく苦痛もついてきます。

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