会社の寮を追い出されて一人暮らしだった30代。徒歩15分の 枚方市 御殿山公園で練習していました。賃貸マンションで防音室を買うなど思いもよりませんでした。

枚方市の公園はほとんど人が居なくて、そういう意味では心おきなく練習できました。夏は暑く、冬は寒く、夜は街灯の下で楽譜を広げて練習しました。お巡りさんに話しかけられたこともあったかなあ。職務質問と思いきや、ねぎらいの言葉。人と違うことをしていても、今ほど不審に思われない時代でした。

5年後ワンルームから1DKへ。ある日DKの荷物しか置いていない空間を見て、「ここ防音室置けるじゃん」「組み立てる箱みたいなタイプ、ないのかな?」と閃いたのでした。

調べてみたら、パネルを組み立てるユニットタイプの防音室が、ヤマハから出ていました。その名も「アビテックス  ウッディミニ」。引っ越すときもバラして持っていける、画期的な商品でした。

広さは3サイズ。一番小さな0.5畳は縦型の管楽器に。0.8畳がフルートやバイオリン。1.2畳はチェロ向き。という説明でした。この目安は きちきちだったせいか、現在バイオリンには1.2畳以上、チェロには1.5畳以上がお勧めとされています。

買えるお金はある。練習時間はない。お金の使い方が下手な私にしては、珍しくいい決断だったと思います。0.8畳サイズを2003年から6年使いました。値引きもあって、運搬・組立込み38万円くらいでした。

当時ユニット防音室は売り出されたばかりで、ヤマハの営業さんから感想を求められました。

暑い
防音室は音も逃がしませんが、体温も逃がしません。閉め切って練習できるのは真冬だけ。防音室なのに扉を開け放って練習していました。リビングの冷房をがんがんにつけて、扇風機で風を送りこんでも、夏は汗だく。扉を開けていても、床・天井を入れて5方向 遮音されているので、防音室の価値は十分にありました。

天井に弓が当たる
そのため椅子に座って練習していました。

この2点を営業さんに伝えました。どちらも即!仕様が改訂されました。天井の高さは、標準と高めの2仕様から選べるようになり、エアコンもオプションで付けれるようになりました。ほかの使用者さんも同じことを言ったのでしょう。でも自分の声が通ったみたいで嬉しかったです。


防音室を買うなんて一生に一回。自分の意見で仕様改訂がされても、自分がその恩恵にはあずかることはない。と思っていたのですが、人生なにがあるかわかりません。2016年バイオリン教室のレッスン用として3畳サイズの防音室を購入。3年半使いました。

3畳タイプ防音室の中。扉から対角線に撮影。

ユニット防音室は

(1)新品を買う

(2)中古を買う

(3)レンタルする(新品 or 中古)

ことができます。

コスト的に一番お勧めなのは(2)中古を買う  ですが、中古は希望にぴったりのものがなかなかありません。 中古で検討したい方も、まず(1)から順にお読みください。
チェロや他の楽器も、「部屋の広さ」と「天井の高さ」以外の注意点は同じです。

(1)新品を買う

①メーカー

ヤマハかカワイがいいと思います。ネットで探すと安い製品があります。しかし、品質が良くなければ=音量が抑えられなければ、防音室を買う意味がありません。品質に不安のないメーカーがいいのではないでしょうか。

ヤマハとカワイは、単にメーカーが違うというだけでなく、開発思想やスペックにも違いがあります。どちらが自分に合ってそうか、確認しましょう。

価格設定も違います。ヤマハの防音室は 2023年6月1日 出荷分から大幅な値上げとなりました。特にバイオリン向きの小型サイズの値上げ幅が大きく、およそ倍になります。これまではカワイの小型タイプに割高感があったのですが、ヤマハが過去からの経緯で戦略的に価格を抑えていたのでしょう。

②部屋の広さ

1.2畳以上がいいでしょう。(チェロは1.5畳以上。)実際にショールームで体験してみましょう。

0.8畳だと身動きが取れず、譜面台との距離も固定されますが、練習したい人には 0.8畳であっても ないよりある方がいいです。金属ミュートでびくびく練習するのと、音漏れを気にせずいつでも弾けるのでは、気分が全然違います。

防音室は壁が厚いので、内寸と外寸がかなり違います。外寸は大きめの畳サイズ、内寸は小さめの畳サイズ、と思うといいでしょう。

③天井の高さ

普通と、高めの2種類あります。バイオリン・ビオラで使うなら高い方にしましょう。メーカーやサイズによって異なりますが、およそ20cmの差があります。値段も20万円ほど違いますが、ここはエアコンと並んで、お金を節約してはいけないポイントです。あとから後悔しても、天井は高くなりません。

普通の高さでは、天井に弓が当たって、バイオリンを立って弾くことはできません。天井に弓があたらないのは、弓が使えていないからです。(チェロはもちろん普通の高さで大丈夫。)

防音室を置く部屋の、天井の高さに注意しましょう。天井はオッケーでも、壁際だけ梁が出ていることもあります。

④エアコン

エアコンは基本必須です。しかし防音室を置く部屋にエアコンがあるなら、防音室にエアコンは付けないという選択肢もあります。

部屋のエアコンで防音室内を冷やすには、
a)防音室の扉を開けたままにできるなら、部屋の冷気を、扇風機で送りこむようにする。
b)防音室の扉を開け放てないなら、時々扉をぱたぱた開閉して、部屋の空気と防音室内の空気を混ぜる。真夏は数分に1回必要。

防音室は気密性が高いため換気扇が付いていますが、音漏れさせずに空気を入れ替えするタイプであるせいか、部屋の冷気を取りいれる役には立ちません。

部屋にエアコンがあったとしても、防音室にエアコンがあった方が、練習ははかどります。また部屋のエアコンで防音室内を冷やす方が、電気代はかかるでしょう。

エアコン代まで出せない、暑くてもいい、と考える方もおられるでしょうか。しかし顎と顎当て、指と指板が、汗でツルツルすべっている状態では練習になりません。塩分でバイオリンも傷みます。

エアコンは、施工のプランも考える必要があります。防音室は賃貸住宅に必要となることが多いので、戸建てより室外機が置ける場所が限られ、配管を天井や壁にどう取り付けるかという課題が1つ。

また排水は一般的に室外機のところで行いますが、防音室のばあい室外機より手前で排水地点を作ることがあります。そこに水を受ける容器を置きます。室外機までのルートが長すぎて下り坂でない箇所があると、排水されないからです。

工事業者さんも、運搬・設置の業者さんとは別です。メーカー指定の業者さんだと防音室にエアコンを付けなれていますが、懇意の電気屋さんに相談してもいいでしょう。その場合、作業内容をよく理解してもらってから、依頼してください。

私が買った3畳の防音室は、外壁に面していない部屋に置きました。室外機までの配管ルートが長く、配管の固定も大変でした。排水は防音室のすぐ外で、容器で受けました。

⑤遮音力

2~3段階ありますが、一番低いので大丈夫です。バイオリンは空気伝搬音がメインなので、個体伝搬音が多いチェロやピアノに比べて、数値以上に遮音の効果が出ます。遮音力はお金のかけどころではありません。

⑥運搬・組立

ヤマハは価格改定に先駆けて、「ユーザー組立型 簡易防音室」という製品を2023年1月にリリースしました。これまでと同じくらいの価格ですが、0.5畳タイプしかないので、バイオリン・ビオラの練習には使えません。この新商品、簡易とうたっていますが遮音力Dr-31と本格的で、今後のサイズ展開に期待したいところです。

基本 防音室の運搬・組立は専門業者に頼むのですが、結構高いので、自力でやることを考える方もおられるのでは。0.8畳サイズをゆずったアマオケ友達も、親しい工務店さんと自分で移設しようともくろみ、私に止められました。

防音室の運搬・組立は、指定業者に頼みましょう。万が一 品質を損ねては、買う意味がないからです。

防音室は市場が小さいので、ユーザー1人1人の声が届きやすいです。ヤマハに、「ユーザー組立型 簡易防音室 1.2畳、天井高いの、エアコン付きを出してくれ~」と訴えてみてもいいかもしれません。案外企画中かも。

(2)中古を買う

中古の防音室は、新品にはない制約事項があります。(1)①~⑥に加え、以下の点を確認しましょう。

置く部屋の状況をしっかり確認してくれない業者さんから買うと、最悪置けない可能性もあります。本当に部屋に置けるのか、厳しくチェックしてくれる業者さんから買いましょう。

⑦扉の位置と、開く向き

新品であれば、
・扉の位置
・左右どちらが開くか
・内外どちらへ開くか
は自由に決めることができます。

しかし中古の扉は最初から決まってしまっています。防音室を置きたい部屋の間取りを、画にして確認しましょう。

〇畳サイズにする!と決めて、〇畳サイズの中古を5個見つけても、部屋に置ける候補は0~2個でしょう。扉の位置・開き方を妥協すると、練習する気がそがれるかもしれません。

⑧換気扇の位置

換気扇の位置も決まってしまっています。防音用の換気扇は、壁から出っ張っています。

⑨エアコンの位置

新品と違って、ダクト穴が開いてしまっています。防音力は弱まりますが、穴に詰め物をして、エアコンの位置を変えることもできます。

(3)レンタルする

防音室が必要な期間が決まっている、バイオリンを始めたけれどいつまで続くかわからない、そんな時に向きます。途中で買い取ることもできますが、割高になるでしょう。