楽器店には、「バイオリン・ビオラ・チェロ(・コントラバス)を主に扱っている楽器店」と「いろんな楽器を扱っている楽器店」があります。バイオリンを買ったり調整したりするのは、前者の楽器店にしましょう。

この記事では、「バイオリン・ビオラ・チェロ(・コントラバス)を主に扱っている楽器店」のことを楽器店と述べます。

楽器店とバイオリン工房は、
(1)バイオリンを売っている
(2)バイオリンのメンテナンスをしている

という点で同じなのですが、商売の生い立ちが違うため、得意分野が違います。楽器店はバイオリンを売るのがメインのお店で、経営者がいて、社員(店員さん)がいます。バイオリン工房は、バイオリンを作ったり直したりするお店で、職人さんが経営者です。

ひと昔前には、「うちはバイオリンを売っているお店で、メンテナンスのことは知らない」「うちはメンテナンスのお店で、販売は本業じゃない」ということもありました。最近は商売の競争が激しくなったこともあり、だんだん垣根がなくなってきました。

楽器店にも、職人さんが駐在していることがあります。社員として雇っているところもあれば、提携しているだけで特定の日だけ居ることもあります。この記事では

(1)バイオリンや備品を買いたい
   ①新品のバイオリン
   ②中古のバイオリン
   ③オールドのバイオリン
   ④新作のバイオリン
   ⑤弓

   ⑥フィッティングパーツ
   ⑦付属品、備品

(2)バイオリンのメンテナンスをしたい
   ①弓の毛替え
   ②弦の交換
   ③バイオリンの調整・修理

という章立てで、楽器店・バイオリン工房のどちらを、どう利用したらいいかについて、説明したいと思います。

(1)バイオリンや備品を買いたい

メーカーやブランドではなく、値段ではなく、信頼できると感じたアフターケアの良い楽器店・工房で買いましょう。

バイオリン工房と比べたときの、楽器店 最大の利点は、予約を入れずふらっと入れる点です。また楽器を弾かせてもらったあと、「少し考えます」と言って買わずに帰りやすい点です。もちろんバイオリン工房であっても、出してもらった楽器に納得が行かなければ、買わなくていいのですが。

ほんの少しだけですが、見にきたら買ってくものだ、と考える工房もあります。工房は1人の職人さん、または数人でしているところが多いため、いろいろ見せてもらったあげく何も買わないのも失礼です。

昨今はなんでもネットで買えますが、バイオリンは木でできているので、木目・色合い・重さ・質感が1点づつ違います。実物を見て、触って、音を聴いて、選びましょう。

分数バイオリンや初心者向けバイオリンを、自分で買う経験を積んでおくと、生涯使う値段のバイオリンをいざ買うとき、ビビらずにすみます。

①新品 (*1) のバイオリン

(*1) 工場で作られた品番のある量産品を「新品」、工房で作られたものを「新作」と呼ぶことにします。(中間的な品もあります。)

新品は、基本的にどこで買っても同じです。例えばスズキというブランドのNo.230という品番のバイオリンセットは、どこで購入しても同じ。ネットで買っても同じです。

しかし木工品であるバイオリンは、1点づつ微妙に違うので、実物を確認して買う方が納得性が高まります。プラスチックや金属でできた製品のように均質ではなく、瑕疵が隠れていることもゼロではありません。

バイオリン・ビオラは、販売店で最終調整がされるという前提で、出荷されています。E線がぴん!と張られるのは、お客様に渡される直前です。E線をぴん!と張るということは、駒の傾きも確認せねばなりません。

更に言えば、流通ルートによって、同じ品番のものでも最終仕上げ(削り方)を簡素化して、売価を下げているバイオリンがあります。

1台目の楽器として新品のバイオリンを買うなら、大きめの楽器店で、店頭に並んでいるものの中から選ぶのがいいと思います。大きな楽器店に行けない地方在住のばあいは、専門でない楽器店、専門の楽器店のネットショップ、信頼できそうなネットonlyショップでもいいでしょう。

規模の小さな楽器店やバイオリン工房では、店頭には数十万円のものしか置いてなく、分数バイオリンや初心者向けバイオリンは取り寄せになることがあります。届いたものが気に入らなくてもキャンセルしにくかったり、納期がはっきりしなかったりするリスクがあります。
コロナ発生時に流通がみだれ、頼んだものが半年届かないことがありました。大手楽器店であれば、代替品を提案してくれたでしょう。

②中古 (*2) のバイオリン

(*2) 使い古して値が下がったものを「中古バイオリン」、エイジングにより価値が上がったものを「オールドバイオリン」と呼ぶことにします。

中古バイオリンは、新品以上に、どこで買うかが大切です。思わぬ瑕疵が隠れているリスクがあるからです。そのため多くの楽器店では、中古バイオリンの買い取りに積極的ではありません。
中古バイオリンが楽器店に並んでなくて、メルカリやネットオークションに溢れているのは、正規の楽器店が引き取ってくれないからです。

少しでも安く節約したいと考える生徒さんは、中古バイオリンで探します。そうした方には、大阪府茨木市の「アマービレ楽器」という楽器店を紹介しています。送ってもらうこともできる(関西圏でない方は、そうなさってください)のですが、可能なら現地で実物を触って選びましょう。

また大阪梅田の楽器店「クロサワバイオリン」も、店頭に分数バイオリン・初心者向けバイオリンが並んでいます。新品と中古(中古は出物がないときもあります)いくつかの選択肢から選ぶことができます。

メルカリやネットオークションで買う方法もあります。手に入る楽器の品質と、購入価格の平均値を取れば、割安になるでしょう。
問題はアタリとハズレの差が大きいことです。アタリを手に入れた生徒さんもいれば、修理代の見積もりを聞いて新品のバイオリンを買い直した生徒さんもいます。

枚方のバイオリン工房では、流通過程にある中古バイオリンを調整する仕事もしています。調整が終わったバイオリンは、楽器店で売られるわけですが、職人さんが「これはいい」と思った楽器を仕入れてしまい、自分の工房で売ることもできます。

私のバイオリン・ビオラ教室では、生徒が中古バイオリンを探すとき、枚方の工房に頼んで用意してもらうことがあります。
こうした買い方の難点は、キャンセル不可で、自分で選べない点です。それでよければ、楽器店の店頭に並んだものの中からさがすより、質の高いバイオリンが手にはいります。

③オールド (*2) のバイオリン

中古バイオリン以上に、どこで買うかが大切です。問題が発生する可能性は、新品や中古のバイオリンより更に上がります。となればやはり、後から調整や修理をしてもらう可能性をかんがみ、職人さんのいるお店で買いましょう。

職人さんが時折いるお店より、常駐しているお店。常駐しているお店より、職人さんがオーナーのお店(すなわちバイオリン工房)がいいです。人は、責任が大きい立場に置かれているほど、良い仕事をしようとします。

業界の慣習として、自分のところで販売した楽器の調整・修理は、買って間もなければ無償です。また時間がたっても、自分のところで販売した楽器は、なにかと考慮してくれます。下取り価格も違います。

通常、楽器店やバイオリン工房などの販売店は、輸入卸業者からバイオリンを仕入れて売ります。
しかし中には、自ら欧州へバイオリンの買い付けに渡航する販売店もあります。大阪の楽器店「国際楽器社」などがそうです。輸入卸業者が介在しないぶん、店頭価格は安くなります。
また輸入卸業者から直接購入できれば、販売店が介在しないぶん安くなります。

私のお勧めするオールドの探し方は、信頼できるバイオリン工房の職人さん(または楽器店のスタッフ)に、こんな楽器が欲しいから目を光らせておいて、とお願いすることです。
毛替えや調整で定期的に足を運び、待ち時間に店内にある楽器を試弾させてもらうなど、お店の方に自分自身を知ってもらうようにしましょう。相手の、あなたのために見つけてあげようという気持ちが強いほど、よい情報が舞い込みやすくなります。

④新作 (*1) のバイオリン

私のイチオシは日本製。日本の職人さんが、自分のバイオリン工房で作っているバイオリン・ビオラ・チェロです。
とくにビオラは、枚方市くずはのバイオリン工房「Liuteria TAKASHI」のものをお勧めします。

日本の職人さんは、バイオリン製作の国際コンクールで入賞している方もたくさんおられ、全体的なレベルが高いのです。海外の演奏家が、わざわざ日本に修理を託しに来ることもあります。

阪神淡路大震災で数千万円のオールドバイオリンを壊してしまった先生から、海外の〇〇さんに直してもらうか京都の△△さんに直してもらうか迷った末、京都に持っていったと聞きました。それくらい日本の職人さんは信頼されているのです。

日本製以外では、人件費の安い第三国の製品に、良いものがあります。ルーマニア製は評価が高く、中国製などでも良いものを見たことがあります。
イタリアのバイオリン工房で作られたものが人気ですが、日本ではイタリア製への信仰が過剰に高いため、割高です。

日本の職人さんに頼むなら、オーダーして作ってもらうこともできますが、意図したのと違うバイオリンが出来あがってくることもあります。完成しているものの中から、気に入るバイオリン・ビオラを探すのがいいでしょう。

関西ですと、関西弦楽器製作者協会という組織に多くの職人さんが所属し、5月上旬に展示会をやっています。職人さんたちが自作の楽器を一斉に展示し、実際に弾かせてもらうことができます。どんな製作者さんがいるのか、どんな楽器があるのか、一網打尽にできます。
 
日本の職人さんの新作バイオリンを買った場合の難点は、ほかの職人さんに調整・修繕をしてもらえない可能性がある点です。
これは新作バイオリンにかぎらず、あります。他の工房で買ったものは、うちでは面倒みないよ、的な風習があるのです。私も遭遇しました。

しかし若い世代の職人さんたちの意識は変わりつつあるので、過剰に心配しなくて大丈夫です。枚方のバイオリン工房「Liuteria TAKASHI」は、どんな楽器でも見てくれます。お困りの方は問い合わせてみてください。

⑤弓

信頼関係ができているお店、または応対品質の高いお店で買いましょう。弓は、瑕疵があった場合の、何が原因であったかの判断が難しく、お店により対応が分かれるからです。楽器店でもバイオリン工房でも、どちらでもいいです。

安価なバイオリン・ビオラのセットは、規模の小さな楽器店や、職人さんが1人でやっている工房で、たくさんの選択肢を用意することはできないと説明しました。しかし弓だけの場合は、たくさん用意してもらうこともできます。

私のビオラ弓は枚方市の工房(職人さん1人)に依頼しましたが、行ったら20本くらいありました。(そんなに見たいと頼んだワケではない。)
私がしょっちゅう出入りしているお客さんだったこともあるでしょうが、これがビオラ本体だったら、せいぜい3~4台じゃないかと思います。

⑥フィッティングパーツ(顎当て・ペグ・テールピース・エンドピン)

フィッティングパーツの購入や交換は、楽器店でもバイオリン工房でも可能です。しかしフィッティングパーツは、簡単にははずせない楽器の一部分なので、バイオリン工房で見てもらう方がいいでしょう。

単に取り付けるだけでなく、位置を調整して欲しかったり、削って欲しいこともあります。とくに顎当ては、演奏のパフォーマンスに直結します。(2)③もご参照ください。

「いろんな楽器を扱っている楽器店」には通常置いていません。取り寄せはできますが、交換してもらうのは難しいでしょう。

⑦付属品(肩当て)、備品(ケース・チューナー・譜面台・教本)

楽器店でもバイオリン工房でも手に入ります。バイオリン工房では取り寄せになることが多く、楽器店のほうが豊富に揃っています。

肩当ては、実物を試してから買うことを、強くお勧めします。ケースやチューナーも、実物を触ると、ネットでは分からない使い勝手が判明します。

フィッティングパーツとちがい楽器の一部分ではないので、実物がわかっていればネットで買う方が楽で安い。と思っていました。ところが・・こんな体験をしたことがあります。


東洋楽器のバイオリンケースをネットで買いました。実店舗で買うより安かったからです。
しかしほどなくして、弓を固定するボウホルダー(弓止めプロペラ)が効かなくなってきました。

ボウホルダーを交換すればいいのでは?と考え、行きつけの楽器店へ行きました。
そこで交換部品を注文するつもりだったのですが、応対してくれた店員さんが「これ直せるかも、やってみていいですか?」と言って、直してくれたのです。

がびょ~ん!

もちろん無料です。ここで買ってないのに。(ここで買ってないです、すいません、とは言いました。)

行きつけの店へ足へ運ぶ買い方っちゅーのはあなどれん! と感じた一件でした。その店員さんの大ファンになったことは言うまでもありません。

ちなみにボウホルダーが効かなくなってきたら、弓を出すときも しまうときも、時計回りにするといいそうです。

(2)バイオリンのメンテナンスをしたい

①弓の毛替え

弓の毛替えは、職人さんにしてもらう作業です。ですから、職人さんが店主であるバイオリン工房に持ち込むのがベストです。職人さんがおられる楽器店でもベターです。

職人さんは1人のことが多いので、持っていくときは必ず予約をしてください。1時間ほどで作業してくれます。

職人さんがおられない楽器店では、弓を預けることで、毛替えしてもらうことができます。通常一週間の預かりとなり、弓は宅急便などで提携している職人さんへ送られます。

毛替えの勉強をしていない店員さんが、見よう見まねで作業をする楽器店やネットショップがあります。そんなこともあり、作業はその場でしてもらうのがベターです。

その場で待っていると、職人さんと雑談できます。弓や楽器の調子について話せますし、思いもしなかった情報が入ってくることもあります。「1時間くらいかかるから買い物にでも行ってきて」と言われることがありますが、私の考えでは職人さんと話さないと損です。

楽器の点検もしてもらいましょう。職人さんは遠慮がちな方が多いので、自分から「楽器も点検しときましょうか?」と言い出さないことがあります。そんなときは「見てください」と自分から言いましょう。

②弦の交換

弦の交換は、弓の毛替えより短い間隔で必要となります。自分でできるので、最終的にはやり方をおぼえましょう。

とは言っても、バイオリンを習い始めたばかりで憶えることが沢山あるときに、弦の交換までおぼえるのは大変です。
最初は、楽器店やバイオリン工房で弦を買って、そこで換えてもらいましょう。多くの楽器店・工房では、弦を買えば、交換は無料でしてくれます。

弦を交換するときは駒を触ることになるので、駒の位置・傾きの調節もしてもらえます。

「いろんな楽器を扱っている楽器店」は、バイオリンの弦は売っていても、交換になれている店員さんは希少です。私が10年勤めた10店舗くらいある楽器店にも、1人しかいませんでした。弦の取りつけ方がまずいと表板の破損につながります。

③バイオリンの調整・修理

バイオリンの調整や修理は、毛替えと同様、職人さんの仕事です。調整・修理をしてくれる人と直接対話ができるお店へ、持っていきましょう。

工房も楽器店も、職人さんは1人体制のことが多いので、持ちこむときは予約をしてください。予約は大げさだと感じるような悩みの場合、楽器店にふらりと立ち寄ってもいいのですが、楽器店や工房の側では、大した内容でなくても予約してくれる方をありがたく感じます。

楽器店ですと間接費がかかるため、料金はバイオリン工房より高くなります。もしくは職人さんの手にわたる手間賃が安くなります。


職人さんがいない楽器店でも、直してほしいバイオリンや弓を、提携している職人さんへ送ってもらうことができます。しかし異音がするなど音に関する悩みのばあい、希望通りに仕上がってくるかわかりません。修理にしても、いろんな解決方法があるかもしれません。間接的に請けおう職人さんも、自分がいい仕事ができているか不安です。

楽器店と提携関係にある職人さんは、たいてい自分のお店(バイオリン工房)を開いています。そちらを訪問するか、訪問できなくても直接連絡して送るか、する方が、自分の思いに近い調整・修理がしてもらえます。

ペグとペグ穴が合わないビオラを、調整してほしいと頼んだことがありました。ペグとペグ穴の再調整は、預かりで1万円くらいかかります。
ところが職人さんは、その場でペグソープをたっぷりと塗って、「これでしばらく様子を見なはれ」と返してくれました。無料です。そして「ペグの再調整は大がかりやから、如何ともしがたい状態になるまではペグソープの厚塗りで対応しなさい」と言ってくれました。

職人さんにしてみれば、依頼通り作業するほうが儲かったはずです。


修理の場合、所要時間が長かったり読めなかったりすると、預かりになります。予約を取るとき内容をできるだけ詳しく伝え、預かりか否か事前に目途をつけましょう。できる限り、その場で直してもらうことをお勧めします。

その場でしてもらうと、日頃から疑問に思っていたことなどを尋ねることができます。また職人さんも、「ここはAの方法ではなく、Bで直していいですか?」など途中で思いついた考えを、お客さんに確認することができます。

私は毛替えに行ったついでに、あちこち微調整してもらって、3時間バイオリン工房にいることは珍しくありません。手帳を開いて、そこに書き留めてある生徒たちの楽器の気になる点について、職人さんを質問攻めにします。どうしたらよいか悩んでいた生徒の楽器の問題を、職人さんからの提案によって救ってもらうこともあります。

私がバイオリンを預かりにしたのは1回だけ。ネックが本体から外れたときです。ネックと本体の接点は、時代や職人により様々なやり方でつないでおり、中には外れたときに直すのが難しいものもあります。職人さんはじーっと私の楽器を見つめ、少し考える時間をくれるか、と言い、替えのバイオリンを貸し出してくれました。