息をしてください。
と、レッスンで言われたことはありませんか?
そう言われて、息をすることはできたでしょうか? 恐らくできなかったと思います。
息は結果。
ムダな力みがなければ、体は音楽にふさわしいタイミングで自動的に吸ったり吐いたりします。私たちが日常生活で普段、無意識に呼吸しているのと同じです。
アマオケで指揮の先生から息を吸うタイミングが指定されることがあります。音楽が瑞々しくなるし、アンサンブルが揃うからです。しかしそう言われたからといって、次のテイクから指示どおりにできるとは限りません。
理由は前述のとおり、呼吸は結果だからです。脳みそフル稼働でバイオリンを弾いているところへ、「息をする」という新たな作業を付け足すことはできない(だって脳みそフル稼働中だから)のです。
わかっていながら私も「ここで息を吸って」と言ってしまうのは、ここで吸えば音楽が良くなりアンサンブルも揃うよ、と知ってほしいからです。
バイオリンを弾きながら呼吸ができていない(浅くなっている)場合は、平易な素材で 強制吸気 or 強制呼気 の練習をしましょう。
◆呼吸を取り戻す練習:第一段階
易しめの曲・エチュードの出だしだけで練習します。アウフタクトの無いものにしてください。
①バイオリンを構えます
②息を吸います
③息を吐きながらバイオリンを弾き出します
息は、その曲のテンポで吸ってください。いろんなテンポ・拍子の曲で練習しましょう。
◆呼吸を取り戻す練習:第二段階
ゆったりめの3拍子の曲・エチュードで行います。
(1)3拍目で吸い、1拍目で吐きます。3拍目で吸えれば、自然と1~2拍目が吐く息になります。
(2)4拍子であれば、4拍目で吸います。
(3)だんだんと難しい素材にしていきます。
(4)普段やっている曲を使ってみましょう。
◆呼吸を取り戻す練習:第三段階
脳みそに余裕のある曲・エチュードで。
自分がいつ息を吸って、いつ息を吐いているか、観察します。現在進行形で、ああ私はいま息を吸っているな、いま息を吐いているな、と観察しながら弾きます。
◆第四段階
呼吸のことを考えないで弾いていても、あっ今息を吸ったな、と認知できるようになります。
またとっさに、今吸うと良い、と分かったりします。
体の使い方/演奏フォームを試行錯誤しているとき、フッと息が吸える瞬間があります。それは「今のでオッケーだよ」というサインです。呼吸ができるか否かは、体を上手に使えているか否かのバロメーターなのです。
水や食べ物がなくても人は何日か生きていられますが、10分息ができないと死んでしまいます。
酸素は脳の燃料です。呼吸が浅いと脳は働けません。脳が働かなかったら、楽譜が読めなくなり、腕や指が動かなくなります。ピアノや弦楽器など息を使わない楽器も、管楽器と同じくらい呼吸が大事です。
体調が悪くてのどが辛いとき、マスクをすると楽です。クシャミや咳を人にぶっかけないようにもしてくれます。しかし元気なときにマスクをしっぱなしなのは、大変危険です。仮に、ビニール袋で息がもれないよう口と鼻を覆ってみたらどうなるでしょう。
フィギュアスケートの羽生結弦選手は以前から、肉体に負荷をかけるため、マスクをつけて滑る練習をしていたそうです。
肉体に負荷をかけてバイオリンの練習をしたいのでなければ、脳への酸素供給が十分になされている状態で練習しましょう。供給量が少ない状態でさらっていると、省エネモードでの弾き方が定着してしまいます。
バイオリン/ビオラの腕前に関係なく、呼吸に関して天性の才能?がある生徒もいます。(私はありません) 何故だか、楽器を弾きながら息を吸う、という作業が自然にできてしまう方です。ビオラやチェロに多いです。何故バイオリンに少なくて、ビオラなのでしょうね。やはりバイオリンが一番、体への負荷が大きいのでしょう。
誰でも加齢により、体はだんだん動かなくなっていきます。意識して「動きやすい体」を作る努力をしなければ、バイオリン・ビオラはどんどん下手になってゆきます。
呼吸ができている弾き方を目指しましょう。年老いてもバイオリン・ビオラが楽しめる体作りを目指しましょう。