バイオリンの肩当てを「する」「しない」には、いろんな意見があります。肩当ては楽器の保持を助けてくれる反面、存在に違和感があります。体の動きを邪魔している、と感じることもあります。生徒さんのなかには肩当てを使わない方もおられます。

子供は大人以上に、肩当てをイヤがる傾向にあります。とくに幼い子供は、物理的に、バイオリンと胸のあいだに肩当てが入りません。隙間が空いたままではグラグラするので、自作できる スポンジ肩当て や、市販のパッド型で合いそうなものを探します。
イヤがる子供にブリッジ型の肩当てを無理に使わせ続けると、変な演奏フォームになります。そうなってしまった子供たちも、たくさん見てきました。


私も肩当ては好きではないので、肩当てなしの弾き方を考えたり、パッド型を検討してみたことはあります。肩当ては、存在感がないほど、体の不自由感がありません。しかし肩当てなしより肩当てありのほうが、パッド型よりブリッジ型のほうが、技巧的な弾き方ができます。

「肩当てはあった方がいい」「パッド型よりブリッジ型」というのが今の結論です。ブリッジ型のメリットとデメリットを天秤にかけたら、メリットが勝ります。実際に、バイオリン/ビオラの演奏家でブリッジ型肩当てを使っていないプレイヤーは、極めて少数です。


人間サイドのエネルギーが強ければ、道具自体の違和感は相対的に減ります。バイオリン本体や肩当てがしっくりこないという方は、人間側のエネルギーを上げることも、取り組んでみられるといいと思います。

肩当てを受け入れられない体は、「感受性が高い」とも言えるし、「エネルギーが弱い」とも言えます。バイオリンの上達には「感受性の高さ」と「エネルギーの高さ」がいります。

ブリッジ型の違和感に我慢ができなくなる時があるなら、複数のブリッジ型とパッド型を持っておいて、イラッと来たら違うものに変える作戦もお勧めです。私が体調が悪かったときに、やっていたことです。

幼くてもブリッジ型肩当てが付けれる子もいます。また子供は、成長につれエネルギーが上がってくるので、徐々にブリッジ型の肩当てが付けられるようになります。小さな分数バイオリンでは、バイオリンに比べて肩当ての質量が大きいですが、サイズアップにつれて比重が下がるので、肩当てなし→パッド型→ブリッジ型と付けれる子供が増えていきます。

子供用の肩当ては、「パッド」部分は小さく作ってあるのですが、「足」や「脚」の部品が大人用と同じものが多いです。そのため小さな子供には高さがありすぎます。しかし実際に使ってみないと、どの肩当てが合うのか、本人も先生もわかりません。手に入ったものから試しに使ってみましょう。セットに入っていなくても、何か1つはブリッジ型の肩当てを買ってみましょう。

子供用の肩当てには、以下のようなものがあります。

①KUN

いちばん巷に出回っている、手に入れやすい肩当てです。

②KUNもどき

KUNに良く似た、後発メーカーの肩当てです。

バイオリンの付属品は市場が小さく、メーカーやブランドが大きく入れ替わることはありませんでした。使用者からすると、現行の肩当てに不満があっても、代わり映えのしない選択肢から選ぶしかありません。

しかし近年プラスチックの成型コスト低下にともない、格安プラスチック肩当てが徐々に増えてきました。KUNはプラスチック成型でシェアも高いので、マークされやすい運命にあります。実際KUNをちょっと安っぽくしたような肩当てが、1/2~1/3の値段で手に入ります。

木製の肩当てや、金属フレームWOLFの肩当ては、職人による手作業の比率が高いので、同じ品質でパクられる心配は少ないです。しかし元々、プラスチックに比べると割高です。KUNもどきと比べると、かなり値差があります。

③MUCO

以前からパッド型の肩当てを出している台湾メーカー。

最近 子供用のKUNっぽい肩当てを出しています。KUNもどきの1つと言えるでしょう。KUNより高さが低くでき、これまで2人の生徒さんに使ってもらったことがあります。安い反面、壊れやすいです。

現在 単品で購入するルートは無く、フューメビアンカ等を卸しているところのセットバイオリンの付属に付けられているのみです。ネットショップで見かけましたがサイズ・個数が限られていました。

子供用のブリッジ型 肩当て。上から MUCO、MACH ONE、ARTINO

④センパープリムス(SEMPER PRIMUS)

これも高さの低いブリッジ型肩当てです。made in JAPAN。しかしだいぶ前に製造中止になり、流通在庫もほぼありません。半年前に京都三条寺町の十字屋さん店頭で 1/4 を見かけました。

体調が悪く 高さの低い肩当てを好んで使っていた時期、センパープリムスが気に入っていました。分数バイオリン向けもあることと、製造中止になっていることを知り、ネットショップや実店舗を回って、貸出用の 1/8  1/4  1/2  3/4 を揃えました。

この肩当ての難点は、肩当てが自立?してバイオリンにひっつけず?、輪ゴムで固定するため外れやすいことです。そのため二重三重に輪ゴムをし、さらに顎で強く挟み過ぎないよう気をつけなければなりません。また高さや幅の調節ができず、複数サイズの分数バイオリンで兼用できません。

センパープリムス 4/4  3/4  1/2  1/4  1/8

⑤ビバラムジカ(Viva La Musica)

ビバラムジカは木製の肩当てメーカーですが、のダイヤモンド(DIAMOND)大人用は、かなり低めの肩当てです。でも子供用も脚のパーツが同じなため、分数バイオリンに合わせたとき低いとは言えません。なぜか 3/4~4/4 兼用(3/4~1/2兼用が多い)なので、3/4へのサイズアップ時に肩当てを買う必要があれば、選んでみてもいいと思います。KUNやKUNもどきより重めです。

⑥ウルフ(WOLF)

ウルフにも低いタイプがあります。3/4~4/4 兼用。重めです。金属フレームにウレタンパッドなので、ねじ曲げたりカットしたり自分好みにできんことはないです。

⑦HAYATE(追記)

2024年現在、1/2~3/4にお勧めしているのは HAYATEスタンダード(大人用)です。
HAYATEは、幅が無段階で調整でき、高さは段階的にですがかなりの幅をもって調整ができます。1/4の子供にも使ってもらっているのですが、極限まで小さく調整するため知識が要ります。

HAYATE kids という 1/8~1/4用に売り出されている肩当てもありますが、足と脚が大人用と同じで、お勧めしません。大人用を子供たちに使いだして1年経ちましたが、トラブルは起きていません。教室の半数以上の子供たちが使っています。

ほかにも子供用のブリッジ型肩当てはありますが、小さな分数バイオリンにお勧めできる「高さ」のものはありません。MUCOと一緒に MACH ONE と ARTINO という2つの子供用肩当ての写真を載せましたが、これらは高さがあるので引出しで眠っています。

ペディ(Pedi)も大人フルサイズ用・ビオラ用は使いやすく、高さも低めですが、子供用がありません。カーボン製なので値段が高く、脚と足の接点にガタが来やすいですが、軽くて音響もいいです。