ビオラのレッスンで、どのような教本をどのように用いているか、ご紹介したいと思います。

初心者さんは、磯先生の「初心者のための やさしいヴィオラ入門」をされることをお勧めします。基礎練習だけでなく、易しい曲も収められていて、楽しく学習できるよう工夫されています。3rdポジションまでの部分がこなせたらアマオケデビューできます。

ビオラ経験者やバイオリン転向組も、アマチュアであれば「初心者のための やさしいヴィオラ入門」をみっちりやれば十分です。ただ素材数が少なく、とくに左手のためのものが少ないので、練習がマンネリ化してくるかもしれません。
その場合は磯先生の「ビオラ教則本」へ進むか、(2)ジット/ダンクラへ行ってもいいと思います。 (2)(4)で紹介している曲をやってもいいでしょう。

磯先生の2冊は、内容が全然かぶっていませんので、両方持っていて損はしません。
易しい素材だとやる気が起きない方は、1冊目に「ビオラ教則本」やジット/ダンクラを選んでもいいです。

(1)磯 良男 先生 2冊の教本
(2)ジットとダンクラ、ほか
(3)STAINER & BELL 社の教本
(4)バイオリン・チェロの教本

(1)磯 良男 先生  2冊の教本

磯良男先生が出されている2冊の教則本は、どちらも1冊で多くの要素を網羅しています。アマチュアのビオラ奏者なら、1冊やり抜くだけで十分、2冊持てば完璧。これらを丁寧にきちんとさらえば、ほかのビオラ教本は要らないくらいです。

運指にしろ運弓にしろ、シンプルで過不足なく、全パターンを網羅するよう書かれています。網羅されていると、自分の苦手なパターンがわかります。苦手がわかったら、そこに焦点を当てることで、効率的な練習ができます。少ない練習量で上手になる方がいいに決まっています。バイオリンの教本で、これに匹敵するものは見つかりません。

初心者のための やさしいヴィオラ入門

ピアノ伴奏譜つきと、そうでないものがあります。ピアノ伴奏費つきを買っておくと、ピアノの友達とアンサンブルができます。先生がピアノ伴奏つきを持っているなら、なしを買ってもいいでしょう。

①開放弦だけの リズム/移弦/スラー
②左の運指、左も加わった移弦/スラー

①②で、初心者さんはビオラという楽器に慣れることができます。経験者さんもスキルアップに使えます。きっちりこなそうと思うと決して易しくはない内容です。

③第1ポジションだけで弾ける  10曲


④第2~第5ポジション、ビブラート

ポジション移動しながら弾く練習は、1の指を起点にして展開されています。
第2~第5ポジション固定で弾く練習は、「左指を置く場所を理解しやすいよう」「フォームを整えやすいよう」作られています。これに相当するバイオリン教本がないのが不思議なくらい、優れた内容です。

⑤ポジション移動がある  13曲

ビオラ教則本

全編シンプルな基礎練習の教本です。左手中心。経験者さん向き。

いずれの章も、まず全体を俯瞰し内容を理解したうえで、自分になにが必要か考えて優先順位をつけましょう。順番にだらだらやっても効果はありません。苦手な指や苦手な弦をピックアップして、集中的にトレーニングする使い方がお勧めです。
弦は常に、第4弦→第3弦→2→1という順番に載っていますが、書かれた通りにさらっていたら第4弦ばかり練習するはめになります。左指も同様。

①基礎練習1
左指の開き方を、全音と半音を組み合わせたパターンにして、全弦&全指を網羅したシンプルなトレーニングです。このように整理されたバイオリン教本はありません。肉体的に楽なパターンから取り組むといいでしょう。左1と左2の指の開きが半音から、訓練させようとする教本は、体のことを考えていないと思います。

②音階練習1
第1ポジションだけの、全弦&全指を使ったスケールとアルペジオ。これに相当するバイオリン教材がないため、バイオリンの生徒には手書きで作った教材をさせています。

③基礎練習2

基礎練習1を展開させたもの。様々な運指を、様々なスラー&リズムでやります。

④ポジション移動

1指を使う移動→2指を使う移動→3→4という順番に載っていますが、必ずしも順番通りがいいとは限りません。自分はどのパターンから攻略するといいのか、考えましょう。
2度の移動→3度の移動→4→5という順に載っていますが、ポジション移動の練習はやはり3度から慣れていくのがいいと思います。教本的には、2度→3度→4度と書いてあると分かりやすく、戦略的に使えます。
3度の移動の部分は、この章のなかで最も役立つ教材です。

短音階(短調)が、長調とページが分けられているのは、上りが旋律的短音階、下りが自然短音階であることに慣れるためと思われます。上りと下りで「移動ラ」と「移動シ」の音程が半音違います。

⑤音階練習2

2オクターブ。バイオリンのスケール教本と同じものが登場。

⑥音階練習3
ポジション固定で4弦使うスケール。フィンガリングは同じで、半音づつ上がっていくだけです。

⑦音階練習4
3オクターブ

⑧重音の音階練習法
3オクターブの「音階練習4」はパスしても、ここはやっておきましょう。この程度の重音は、オケの曲にも出てきます。

⑨音階練習5~8
重音のスケールです。

(2)ジットとダンクラ、ほか

ここで紹介している教材は、いずれも経験者さん向きです。

SITT

ハンス・ジットというバイオリニストが出版した、ビオラのための教本です。

Practical Viola Method for Easy up to the Medium Level(実践的ビオラ教本 for 初級~中級)
 多くの先生が使っている中身の濃い教本です。平易な教本ではやる気が出ない経験者さんは、これを使っても良いと思います。

Bratschen Schule(ビオラスクール)
 スケールから始まり、後半は室内楽曲におけるビオラパートのメロディなどが抜粋されています。

DANCLA

シャルル・ダンクラというバイオリニストも、何冊かビオラ教本を著しています。

Easy School of Melody
 我が家にはこの教本があります。ピアノ伴奏もついた易しい曲集です。

15 Etuden Op.68(練習曲)
20 Etudes Brillantes Op.73(華麗なる練習曲)
School of Mechanism Op.74(技術的練習曲)

■ほか

テレマンの協奏曲ト長調、グラズノフのエレジー なども、基礎を構築するのに良い教材です。
我が家には、コレッリの Selected Etudes という謎の教材もあります。

(3)STAINER & BELL 社 の教本

STAINER & BELL 社から出版されているビオラ教本が、2シリーズあります。薄いのですが値段は高め。私が使うのは Emil Kreuz の1巻くらいです。

VIOLA SCHOOL OF PROGRESSIVE by Adam Carse

シンプルで平易な基礎練習のための本です。

BOOK1.  Preliminary Exercises(準備練習)
BOOK2.  First Position
BOOK3.  Half, First and Second Position
BOOK4.  First to Third Position
BOOK5.  First to Fifth Position

SELECT STUDIES for THE VIOLA by Emil Kreuz

バイオリン教本でいえばホーマンに似ているエチュード集です。スケール的な素材や、先生が2ndパートを弾く二重奏もあります。1巻は易しいのですが、2巻以降は少し難しくなります。
基礎練習をして欲しいけど、磯先生の ”いかにも基礎練習” という見た目に抵抗がある生徒さんに、1巻を使います。基礎練習をすると上手くなって楽しい、ということに目覚めてくれたら、磯先生の本などをやります。

BOOK1.
BOOK2.  First Position
BOOK3.  First to Third Position
BOOK4.  Fourth and Fifth Positions

(4)バイオリン/チェロの教本

バイオリン教本

「スズキ」「カイザー」「クロイツェル」「セヴシック」「カールフレッシュ」などなど、有名どころのバイオリン教則本は、ビオラのハ音記号に直したものが出版されています。バイオリンとビオラは、原理が同じで大きさが違う楽器なので、これらの教本も使い方次第です。

バイオリンはA線とE線(第2弦と第1弦)から学びます。ビオラも独奏曲は、第1弦のハイポジションを使う技術がいりますが、オーケストラや室内楽で内声を担うことが多い楽器です。出現頻度から考えると、第4弦と第3弦が基本となります。第4弦の音程はC(固定ド)でもあります。

最初からビオラのために編纂された教本は、こうしたビオラの特性を考えて作られています。
知っているから/聞いたことがあるからとバイオリン教則本のビオラ版を安易に選ぶのではなく、ビオラを学びたいならビオラ教則本から選ぶことをまず考えましょう。

■バッハの無伴奏チェロ組曲

ビオラとチェロはオクターブ違いの楽器なので、チェロのために書かれた楽譜はビオラで弾けます。バッハの無伴奏チェロ組曲は、経験者さんのよい教材になります。

この曲をしっかり勉強したいなら、ホフマイスター社の上下巻に分かれている楽譜がお勧めです。まるでピアノの右手と左手のように、ハ音記号とヘ音記号が併記されています。ハ音記号のほうは現代風のスラーが、ヘ音記号のほうはバッハの直筆譜から拾った怪しい情報が書かれています。