毎年乾燥する季節になると、ペグが戻る現象に悩まされる生徒さんが出てきます。気温や湿度は、人が思っている以上に楽器に影響します。ペグが戻ったら、バイオリン・ビオラの置き場所や取り扱いを見直すサインだと思いましょう。持ち主が普段の取り扱いに注意すれば、ペグが戻る現象は必ず止まります。
ペグが戻りやすいのは、
（１）持ち主の取りあつかいが適切でない
（２）売り主の調整が適切でない
などが原因です。
またペグを回すとき、パキパキ言う状態のままにしている方がおられます。ペグがスムーズに回らなければ手早く正しく調弦ができません。自分でスムーズにすることができなければ、バイオリン工房で直してもらいましょう。
（１）バイオリンの持ち主が気づかうべきこと
バイオリン・ビオラの持ち主が対策できることを、４点にまとめました。
①気温・湿度の変化がないようにする
②ペグは押し込みながら回す
③ペグソープを塗る
④弦の張り方に気をつけてみる
①気温・湿度の変化がないようにする
楽器や弦は、思っている以上に、温度・湿度の変化に敏感です。赤ちゃんと同じと考えましょう。冬や夏に車のなかに置き去りにはしてはダメです。家の中でも、日光があたる場所、冷暖房があたる場所、朝晩冷える場所などは避けてください。
新品の弦が何度も切れ、ペグが頻繁にゆるむ生徒さんがおられました。
「家でバイオリンを置いている場所は、温度・湿度の変化が少ないところですか？」とお尋ねしても、「そうだ」とおっしゃいます。しかしペグはしょっちゅう戻る。「レッスンに持ちだす以外、家に置いているなら、置き場所の温度・湿度の変化しか考えられないんです」と何度も話して、置き場所をいろいろと試してもらったら、ペグは戻らなくなりました。やはり置き場所が原因でした。
戻る現象が頻繁に起きていたころは、駒にあたっている部分の弦の巻き幅が広がっていましたが、それも見られなくなりました。
生徒さんが「暑いところには置いていません」と言っているのに、ニスや松脂が溶けていることがあります。（安いバイオリンはニスが溶けやすい） 人間の「暑い・寒い」よりも、バイオリンの方が敏感なのです。
音程が大きく狂ったとき電子チューナーは役に立ちません。自分の耳で、正しい音程の近くまでペグを戻す必要があります。
これは初心者さんには難しいので、お助け道具として、調子笛（ピッチパイプ）を配っています。４管だけのハーモニカのような器具で、バイオリン４弦の音がピンポイントで鳴ります。これを吹きながらペグを巻き上げていくと、弦を張りすぎてしまうことがなく安心です。
ピアノなどの鍵盤楽器が家にある方は、ピアノのほうがやりやすいです。一番右のダンパーペダルを踏みながら鍵盤を叩くと、ピアノの音を聴きながら調弦できます。
②ペグは押し込みながら回す
調弦でペグを回すときは、押し込みながら回しましょう。ペグは先端が細く、根元が太くなっているので、普通に回していると穴から抜けてゆきます。押し込みながら回していても徐々に浮いてきます。
大事な本番前は、正面にかかえて両手でペグを押し込んでおきましょう。ゆるみやすくなっていないペグでも、目視で１ｍｍ程のめり込んだりします。
ペグ穴を開ける前（左） 開けたあと（右）
③ペグソープを塗る
ペグには、ペグソープ／ペグコンポジションを塗りましょう（ペグソープ／ペグコンポジションいずれも商品名）。弦をはずして塗るのは手間がかかるので、弦を交換するとき塗るといいです。
ペグソープには適量があります。ペグがスムーズに回っていれば塗らなくていいです。スムーズでなければ足しましょう。
ペグ穴との接点以外に塗ると、触れたものを汚します。ペグボックスの上からペグを当てて、塗る位置を確かめましょう。ツルツルで光っているところがペグ穴との接点です。
ペグを沢山塗っているのに効果がない、と感じるときは、一旦拭き取ってから塗ってみましょう。
楽器店や工房で塗ってもらってもいいでしょう。よほどペグとペグ穴が合っていないバイオリンでなければ、ペグソープを塗ることで改善されます。ペグソープで改善されなければ、職人さんにペグとペグ穴を削ってもらうことになります。（処置の仕方には色々なパターンがある） 楽器は預かりとなり、正規の工賃は安くありません。
弦を交換するときのペグソープを塗る手順がこちらの記事にあります。交換がなんとなく出来ている方も、手順が合っているか確認しましょう。
2024.01.09 バイオリン・ビオラ 弦の交換方法
④弦の張り方に気をつけてみる
弦をペグボックス内の壁に寄せて巻くと、張られた弦の力が、ペグを押し込む方向に働きます。
注意点として、湿度が低い季節に巻くときは、あまり攻めないように。湿度が上がったとき、木がふくらんでペグが動かなくなったり、圧でペグボックスが割れることがあります。
ペグボックス内で巻かれた弦がきれいにまっすぐ整っているほど、戻りやすいです。わざと左右に振ってクロスになるよう巻く職人さんもおられます。（汚く見えるのはやりすぎです。）
ペグボックスの広さや形状は、バイオリンの性能（音質・音量）にはあまり関係がないためか本当に様々なので、自分のバイオリン・ビオラに合った巻き方を模索してください。ペグボックス内で弦同士が触れると、雑音の元になることもあります。
（２）バイオリンを引きわたす側がすること
ちゃんとした楽器店であれば、①ペグ or/and アジャスターで調弦ができて ②大切に扱っていればペグが戻ったりしない 状態でお客さんに引きわたします。
アジャスター付きの楽器は、ペグがスムーズに回せないことがありますが、これは致し方ありません。アジャスター付きでない楽器は、ペグ調弦になるので、ペグがスムーズに回せなければなりません。
京都市内の大手楽器店で、生徒が５０万円ほどのビオラを衝動買いしてきたことがありました。楽器そのものは良いようでしたが、アジャスター付きでないにもかかわらずペグが回りません。アジャスターもない、ペグもかたい、のでは調弦できません。調弦できない品を販売するのはおかしい、と生徒に伝えると、再度お店へ足を運んだようで、店員さんがペグソープを塗ってくれたそうです。
あとから工房でペグ調整費を支払うはめになったケースもあります。ペグソープを塗れない楽器店で買ったからです。ちゃんとした楽器店・工房で買えば、あとでも無料で調整してくれます。バイオリン・ビオラは「どれを」買うかより「どこで」買うかが大事です。ペグにはそれが如実に表れます。
2019.12.02 バイオリン・ビオラはどこで買ったらいいか
ペグとペグ穴の吸いつきが良好か、ペグを回さないで見分ける方法のひとつは、ペグの先端とペグボックスの穴の面が揃っているかです。ペグが穴に十分に埋まっていなかったり、飛び出しすぎているのは、ペグの状態がよくない可能性があります。
