●バイオリンを座って弾くとき、太ももを外側へひらく方が多いのが気になっています。男性が多いです。おじさまだけかと思いきや高校男子もなります。
太ももが外側へ開いてしまうのは、腹部の深層筋を使わなくてすむのが、楽だからだと思います。深層筋とは、身体の深いところに位置する筋肉のこと。インナーマッスルとも言います。
この座り方ですと骨盤が後ろへ傾きます。この座り方で太ももを閉じようとしても、閉じません。骨盤を立てようとしても、立ちません。

休息するときは、骨盤が後ろへ傾いているのが楽です。産まれる前の羊水のなかでは、私たちはそうした姿勢になっています。横向きに寝るときもそうなります。
しかし、交感神経ONモードでなにかするときは、骨盤が起きていないと身体が駆動してくれません。バイオリンを弾くとき、体を使うとき、仕事をするとき、勉強するとき。
また「交感神経ON時は骨盤は起きているべき」という単純な話ではなく、柔軟であることが大切です。

チーターが全速力で走っている姿を、仙骨(しっぽの付け根)を固定した加工映像を見たことがあります。骨盤と股関節がなめらかに円を描いていました。野生動物は、骨盤・股関節の可動域が大きくしなやかな個体が獲物を捕らえることができ、逃げることができ、生き残ります。

●女性に、座ったとき太ももが外側へ開く姿が見られないのは、膝を開かないようにする姿勢の慣習があるからだと思います。深層筋が使えていない、骨盤が立てられない方は、たくさんおられます。
私も会社勤めの後半、心身が辛かったころ骨盤をずっと寝かせていました。正常な傾きに戻すのに何年もかかりました。骨盤の可動域は戻りましたが、右の股関節に違和感があります。足裏や膝のコンディションに起因しており、改善に行き詰っています。

●バイオリンを弾くには高度な身体操作がいります。ゆえに大人になってから始めても巧くならないといわれ、挫折する人が多い。しかし逆転の発想をすれば、身体を柔らかく使えるようにしていけばジワジワ上達できるのです。

私が骨盤を起こす訓練を粘り強くできたのは、バイオリンのためというより、身体が辛かったからです。
そもそも人間はぐうたらに できていて、困らないと現状を変えません。そう考えると病気や体の痛みは、神様からのギフトと考えることもできます。(いらんけど。)

レッスンで体の使い方を教えると、生徒さんに驚かれることがあります。しかし私の身体能力は、天賦のものではなく、地道な努力によるものです。凡人でもこのように身体を動かせるようになるものです。
神様からのギフト(体の痛み)は絶賛続行中なので、努力もしぶしぶ継続中です。

●私は太ももを外側へ放り出したくはなりませんが、そうしたポーズを取ってみると、

×骨盤を寝かせたくなる
×深部の筋肉がたるむ
×仙骨(しっぽの付け根)と大殿筋を内側へ押し込めている
×体側にある、縦方向に支えるエネルギーの流れが失せる
×骨盤のうえに上体を乗せると、後ろへ倒れてしまうので、無意識に変な筋肉を使っている

といったことを実感します。

●骨盤は、ぐるりと輪になったパンツのような形をしており、左右に分かれています。

骨盤の背中側は、左右の骨盤のあいだに仙骨があり、骨盤と仙骨のあいだは仙腸関節といいます。
骨盤の前側は一見つながっているように見えますが、医学的には「恥骨結合」といい、骨としてつながっていません。

仙腸関節と恥骨結合が柔軟でないと、出産のとき赤ちゃんが出てこれません。

仙骨と骨盤のあいだをなぜ、仙「腸」関節と呼ぶのか?
骨盤は、換骨(カンコツ)・座骨・恥骨の3部位が合体した骨で、換骨の上部を腸骨(チョウコツ)と呼ぶからです。
3部位はもともと軟骨結合で、骨結合するのは成人のころだそう。その時期までが、しなやかな腰を作る大事な期間になります。

頭蓋骨も、ひとかたまりの骨ではなく、いくつかの分野がゆるやかに集合して固まったものです。

●深層筋は、幼少期に外遊びをしていれば、自然と鍛えられます。大人になってからでも遅くありません。還暦を越えた生徒さんでも、細く長く鍛えつづけていると、演奏フォームが改善し体も楽になるようです。

骨盤・股関節の動きを良くすることは、
 ♪健康になる
 ♪美しくなる
 ♪家事が楽になる
と一石何鳥もの効果があります。
レッスンで体をゆるめることのできた生徒さんが、美人になる・男前になる現象を、私はいつも目の当たりにしています。

深層筋は、バイオリンの弾き方により鍛えることができます。私の体の動きに驚かれる生徒さんがいる、と書きましたが、特別なことはしていません。やっているのはバイオリンを弾くこと、家事で体を動かすことだけです。
深層筋の鍛え方や、骨盤・股関節の可動域の改善は、スポーツトレーナーや身体エクササイズの専門家が書いた記事や書籍がたくさんあります。