大阪のマンションから京都府京田辺市の戸建てへ引っこした翌年、2009年の話です。
日差しのきつい5月、たいして邪魔でもない庭の草を抜いていました。抜いてからしばらくたった場所を見ると、土が白くパサパサになっています。草を抜く瞬間、土は黒くてホコホコしていました。
このとき私のなかで、1片の既成概念が崩れました。
草は、抜かないほうが、いいこともある。
NHKプロフェッショナルで「奇跡のリンゴ」木村秋則さんの自然栽培が取りあげられたのが2006年。そのすぐあと同番組で、有機肥料たっぷりの農家さんが放映され、ガッカリしたことを覚えています。当時すでに自然農法と有機農法の違いを認識していたことになります。
にもかかわらず、それから3年たっても、私は草を取っていた。同年2月には、地中の虫や菌を殺すための天地返しもしています。天地返しにより土壌微生物が減ってしまい、あとから悔やむことになろうとは。
既成概念とは、社会通念とは、なんと強固なんでしょう。
奈良の赤目で田んぼを借りていたときのこと。田んぼの雑草にイナゴがとまっていました。きれいに草刈りしたあと、イナゴは稲に移動していました。それを見て青ざめました。草を刈らなければイナゴは雑草を食べたのか? 草を刈ったらイナゴは稲を食べるのか?
畑の先輩に疑問をぶつけると、雑草があれば稲は食べないんだよ。稲より柔らかくて美味しいからね、との返事。ガ~~ン! 秋になり、雑草のない私の田んぼより、むかいの雑草だらけの田んぼのほうが、稲がたわわに実っていました。
天日干しをするときも、稲束に雑草が混じっているほうがヒモが締めやすく、しっかりくくれます。稲だけだとツルツルすべります。
自然農法を、肥料という切り口で説明すると、
慣行農法:化学肥料をたっぷりあげる
有機農法:有機肥料をたっぷりあげる
自然農法:肥料はできるだけ控える
人により肥料のやり方は様々で、クリアに線引きはできません。自然農法というと、肥料はぜったいあげたらダメ!などと言う人もいます。「自然栽培」という言葉を使えば、少しゆるい括りになります。
岡山県ワッカファームは、有機肥料をあげていて、肥料は少なめのほうが野菜が健康に育つと気づきました。理屈を学んだのではなく、野菜たちを観察して、徐々に有機農法から自然農法に変わっていったそうです。
かと思えば、自然農法を標榜しながら、せっせと有機肥料をやっている人もいます。有機肥料をたっぷりあげると野菜はぶよぶよと大きくなります。肥料をあげるほど虫や菌が来やすくなり、防御(農薬)が要ります。
肥料を控えた作物は、とにかく美味しいです。慣行農法の作物を食べなれていると、最初はその美味しさがわかりません。しかし肥料控えめ作物を食べていると、肥料分の多い作物は、体がイヤがるようになります。
肥料分が多いと窒素過多になります。人がこれを食べすぎるとチアノーゼ(酸素欠乏症)を起こします。海外では乳幼児の死亡事故も起きています。日本でも、作物に含まれる窒素濃度を、恒常的に測っている自治体があります。
作物は窒素を消費しようと、大きく茂り、緑が濃くなります。取りこんだ窒素は、アミノ酸などに変えて利用するのですが、過剰だとそのまま蓄めていきます。これは過栄養で、健康な状態ではありません。