2024年に追記
低価格帯のバイオリン・ビオラは殆ど中国の工場で作られています。しかし中国も人件費が高騰しています。中国製造メーカーが下請けとして、もっと人件費の安い東南アジア国を使っている可能性もあります。
低価格帯の楽器も「半プレス」と呼ばれる製造法で、昔のように「いかにもプレス」という楽器は見かけなくなり、品質は向上しました。
唯一の日本製だったエナは製造拠点が中国へ移り、日本の工房は閉鎖となりました。ブランドだけどこかに引き継がれたようですが、2023年ごろから全く違う楽器になっています。

バイオリン・ビオラを買うときに、メーカーやブランドは当てになりません。エナがいい例です。生徒たちの分数バイオリンで一番多いブランドは「スズキ300番台」ですが、これはお宝だ!と思うものもあれば、ほんとにスズキ300?というハズレもあります。スズキ300だから安心、と思って買わない方がいいです。

バイオリン・ビオラは、店頭で、何台かを比べて買いましょう。自分でコントロールでき、専門知識がいらず、明暗を分けるのは、「どこで買うか」です。どうか「どこで買うか」「どのように買うか」にこだわってください。
2019.12.02 バイオリン・ビオラはどこで買ったらいいか

(1)4万円~数十万円のセットバイオリン
(2)セットバイオリンを買うときの知識あれこれ
(3)本体10万円~40万円くらいのバイオリン
(4)本体40万円以上のバイオリン

(1) 4万円~数十万円のセットバイオリン

安い価格帯のバイオリンは、初心者・子供さん向けに、楽器本体・弓・ケースの3点がセットになっています。たまに松脂が、まれに肩当てや調子笛が付いています。

安い価格帯と言っても、セットバイオリンとして販売されている商品の上位グレードには、50万円を越えるものもあります。

安い価格帯のバイオリンは、工場で作られています。作っている人々は専門職ではありません。工業製品を作る工場と同じです。

知名度のあるメーカー・ブランド品であれば、どこの店頭に並んでも、品番とロットが同じであればモノ自体に大きな違いはありません。しかしプラスチックや金属でできている製品とちがい、バイオリンは木工品ですから、専門の楽器店や工房で買うほうが確実に安心ではあります。

アジャスターが付いていない、ペグが回らない、そうしたバイオリンもたまにあります。しかし専門の楽器店・工房で買えば、無償で直してくれます。

専門の楽器店とは、バイオリン・ビオラ・チェロの販売を事業の柱(の1つ)にしているお店のことです。工房とは、バイオリン・ビオラ・チェロを製作したり修理したりする職人さんが開いているお店です。

①8万円のセットバイオリン

税込8万円前後の価格帯のバイオリンは、メーカーがしのぎを削っているので、コストパフォーマンスが良いといえます。メーカーもブランドも把握しきれないほどあり玉石混交です。

私が知っているメーカー・ブランドは、スズキ、ヘフナー、イーストマン、カルロジョルダーノ、ニコロサンティ、エナ、レジン、グリガ、フューメビアンカ、アースミュージックなどです。

イーストマンは、「欧米ブランドで中国製造」の先駆けメーカーです。イーストマン以前のバイオリン製造国は主に、工房製は欧州、リーズナブルなものならスズキ、でした。


米イーストマン社が中国に工場を作ったのは1995年。私がイーストマンのバイオリンと対面したのは2000年。大阪の工房へ毛替えに行ったときです。仕事に厳しい職人さんから、これ弾いてみ、と渡され、その価格と品質に驚きました。

イーストマンの成功に、猫も杓子も中国製造へ。低価格帯のバイオリンは、老舗メーカー新興メーカー入り乱れて、アジアの工場で製造する時代になりました。


中国には質の高い工房製もあります。
レジン、グリガはルーマニア製。ルーマニアには他にもバイオリンメーカー・バイオリン工房があります。ルーマニアで作られたバイオリンは、価格に対する質が良いと定評があります。

エナ(Ena)は唯一の日本製バイオリン。戦前からスズキブランドのバイオリンを製造していましたが、スズキが国際競争のあおりで製造を中国へシフトしたため仕事を失い、自らのブランドを立ち上げました。

エナは重たい個体が多いです。板が厚めなのでしょうか? 戦略として、ライトな印象の外国産メーカーとは違う、弾きこんでいくほどに味わいを増す造りを狙っている、とも聞きました。そういえばスズキの中古にも重たいものがあります。

バイオリン・ビオラは軽いにこしたことはありません。重たいものは選ばないように。


専門の楽器店や工房でバイオリンを買う場合、メーカーはお任せでいいと思います。
私のバイオリン教室でも生徒さんからメーカーを尋ねられることがありますが、低価格帯のメーカーは山ほどあり、且つ木工品で個体差もあります。生徒さんの好みもあり、特段お勧めするメーカーはありません。お勧めする専門の楽器店や工房ならあります。(何を買うかで、お勧めの店は変わります。) 

②8万円より安いセットバイオリン

8万円より安いセットバイオリンを新品で探すなら、
 (a) 8万円(以上)のセットを作っている
 (b) 実店舗で売られている
メーカーがいいです。

言い方を変えれば、「上位クラスの楽器が作れる技術力があって、商売として8万円より安いセットを作ってる」ということです。8万円より安いバイオリンしか作っていない会社のものは、やめましょう。

前述のカルロジョルダーノ・ニコロサンティに、4万円台のセットがあります。もちろん (a) (b) に該当します。8万円は出せない、というばあいは、こうしたバイオリンを選びましょう。ただし卸し業者さんも、4万円台はお勧めはしないと言ったそうです。材料のグレードを落とし、工程も簡略化しています。

中古であれば、正価8万円のセットバイオリンが、5万円ほどで売られています。新品よりお得かも。その値段以下の中古品は避けた方がいいでしょう。

様々な楽器を扱う楽器店で買うなら、新品がいいでしょう。

③8万円より上のセットバイオリン

どのくらい上の価格帯までセットがあるかは、メーカーにより違います。

8万円セットにフェルナンブーコ弓が入らなくなってきたこともあり、弓がグレードアップできたり、本体・弓・ケースをばらばらに選べたりします。

同一メーカーのセットバイオリンの値段の違いは、材料の違いで、製造工程は同じだそうです。

(2) セットバイオリンを買うときの知識あれこれ

①弦について

低価格帯のバイオリンには、安い弦を張って値段を下げているものもあります。一般的にはドミナントという弦を張ることが多く、10万円以上くらいのセットバイオリンは大抵ドミナントです。8万円セットになると安い弦が見られるようになり、それより安価なバイオリンや中古品だと安い弦が張ってあります。

イーストマンやレジンにはドミナントという弦が張られていますが、エナにはプレリュードが張ってあります。プレリュードとは、コストパフォーマンスに優れたダダリオ社のスチール弦で、テールピース側が紺色になっています。人件費の安い国で製造された楽器と、競争しなければならないからでしょう。プレリュードは、売価を落としたいときによく使われます。

マックコーポレーション社が扱うカルロジョルダーノ・ニコロサンティの7万円未満セットには、トマスティーク社のアルファユーという弦が使われています。カルロもニコロも上位機種はもちろんドミナントです。

ドミナントと安価な弦では、「音の鳴り」や「弓のこすりやすさ」が違います。ニコロサンティの最低グレードでは、アルファユーを張ったセットのほか、ドミナントを張ったセットも販売しています。価格差は4400円。この差をどう考えるかは人それぞれですが、弦の質がかなり違うことは確かです。

セット8万円クラスのバイオリンだったら、安い弦からドミナントに替えるだけで音質が良くなります。

②弓について

◆楽器と弓の値段のバランス

一般的に、弓は楽器の半分くらいの値段がよい、と言われています。私は弓にかける値段は、もっと高くてもいいと思います。私のバイオリンとビオラは、どちらも弓の方が高いです。

3点セットのバイオリン・ビオラは、弓に値段のシワ寄せがいっています。8万円セットだと、本体6万円、弓1万円という具合です。昔はそこまでの値差はありませんでした。

通常セットものは、弓だけ違うものに替えることはできませんでした。しかし最近は、プラス料金を払えば弓をアップグレードできるメーカーが増えています。


◆弓の材質について

2015年ごろ、8万円セットの弓の材料が、フェルナンブーコからブラジルウッドへ置き換わりました。環境保護による伐採規制が強まったのです。メーカーによって違いますが、10万円を越えるセットになると、フェルナンブーコが増えてきます。

フェルナンブーコに比べると、ブラジルウッドは腰がなく弾きにくいです。当時私が教えていた楽器店で、セットバイオリンを購入した生徒さんの弓は、規制の前後で大きな品質の差が出てしまいました。

木材の品質は一定ではないので、フェルナンブーコでもアタリとハズレがあります。ハズレのフェルナンブーコは、すらっと真っ直ぐではない感じです。

ブラジルウッドは使い心地がへにゃっとしています。アタリのブラジルウッド弓には出会ったことがありません。

カーボン弓も品質の良いものが続々と登場しています。今後安い弓の主流は、ブラジルウッドからカーボンへ変わっていくかも。
ただ登場してから歴史が浅いので、使っているとどうなるのか未知数です。木材は経年劣化により品質が上がることがありますが、カーボンが上がることはありません。

続くかわからない習い事の、最初の1本としてカーボンを選ぶのもいいでしょう。またコル・レーニョ用に買う方も多いです。

③表板・裏板のカーブについて

昔々バイオリンの表板・裏板のカーブは、人が削るか、プレスして曲げるかでした。「欧米ブランドで中国工場」というビジネスモデルが成功したのは、削り出しの成型ができる工作機械が登場したからでもあります。

現在でも安価なバイオリンは、半プレスです。削り出しとプレスの値段的な境目は、3万円セットあたりだと思いますが、一概には言えません。グローバル化により、加工技術は日進月歩で、価格競争も熾烈です。

バイオリン・ビオラを買うとき、プレスか削り出しかで悩むのは、意味がありません。音で決めたらいいのです。音色・手触り・見た目。


弓はいいです。セットで販売されるバイオリンは、本体をより良く見せるため、弓にしわよせが行っています。

④値段について

セットバイオリンは、割り引かれて売られていることが良くあります。しかし買うときの値段差より、その後にかかってくるメンテナンス費用の差のほうが大きいです。長く使うことになる大人サイズのバイオリンは、特にそうです。

業界の慣習として、自分の店で売った楽器のメンテナンスや修理は安くします。最初に売る値段の安さで勝負しているお店より、アフターフォローが安心できるお店がいいと思います。

また業界の慣習として、下取りするときの値段も、自分の店で売った楽器と持ち込まれた楽器ではちがいます。

⑤重さについて

重いと感じるもの、大きいと感じるものは避けましょう。重さや大きさは、家に帰ったときの方が、重たく大きく感じます。

メーカーやブランドによる違いだけでなく、ロットや年代ごとの傾向もあります。途中で製造拠点が移ったり、スペックが変わったりして、材料や作り方は変わってゆくからです。

メルカリなど、ネットで買うと重さがわかりません。ネットでバイオリン・ビオラを買うことをお勧めしない、大きな理由の1つです。

⑥中古のバイオリンを買うとき

エイジングにより、値段は下がっているのに、コンディションは良いものが手に入ることもあります。

ただし瑕疵が隠れていることもあります。工場製の新品は、メーカー補償がありますが、中古にはありません。安全を期すなら、専門の楽器店や工房で買いましょう。新作中心の専門店でも、ときどき中古の掘り出し物が出ることがあります。

ラベルは当てになりませんので、新作バイオリン以上に、どこで買うかが大切です。

メルカリを見ると、専門の楽器店で売られているより安く出品されています。しかしこれらはメンテナンスされていない状態のもので、専門家による点検もされていません。多くはバイオリン工房へ持っていって再調整する必要があります。

2021.11.21 アタリもあればハズレもある、ネットの中古バイオリン

(3) 本体10万円~40万円くらいのバイオリン

バイオリン本体が10万円を越えるくらいから、セットではないバイオリンが出てきます。バイオリン本体・弓・ケースを別々に選んで買います。そうした楽器は、セットメーカーが工場で作っているものもあれば、職人さんが工房で作っているものがあります。

数十万円~ の質のよいバイオリンを作っている小さな工房は、世界各地にあります。数十万円 出せるなら、8万円セットに力を入れている工場製より、工房製がいいと思います。

専門の楽器店では、少しでも質の高い楽器を仕入れようと、情報を集めたり研究したりしています。そうしたバイオリン・ビオラは、専門の楽器店へ行くと、よくあります。この価格帯の楽器では、ルーマニアのモガというブランドを、生徒や友人に勧めたことがあります。

(4) 本体40万円以上のバイオリン

まず新作かオールド(モダン含む)かを決めるとよいと思います。新作にしたい特別な理由がないのであれば、オールドをお勧めします。40万円台だと出物が少なく、予算を50万円台まで広げると選択肢が増えます。

どこの国のものがいいか考えてみても良いかもしれません。やはり国ごとの傾向や雰囲気というのはあります。イタリア製はお勧めしません。日本ではイタリア製への信仰が強いため、割高です。

一時期40万円台のフランスのオールドがよく出ていました。大阪のバイオリン工房へ毛替えに行くと、職人さんが待ち構えていて、値段をふせたまま試奏して評価を聞かれました。あの頃は毛替えを待っているあいだ、数十万円~数百万円のバイオリンを弾いて、「私だったら いくらなら買ってもいい」か決めるのが仕事でした。

オールドでなく新作を考えるなら日本製はいかがでしょうか? 国内の中堅の職人さんの楽器製作のレベルは大変高いです。値段に対する品質を考えると、イタリア製よりずっと良いと思います。イタリアの職人さんは欧米人が使うイメージを描いて作っておられるでしょうが、日本の職人さんは日本人が使うことをイメージして作っておられます。(そうでない人もいる)
直に会いにいける人が作ったバイオリンを持つというのは、素敵ではありませんか! メンテナンスも超安心です。


(2) ⑤でも述べたように、中古には素人目にはわからない瑕疵があることがあります。値段が適正かどうかも、素人にはわかりません。信頼できるお店、信頼できる人から買いましょう
あとは自分が、その楽器が好きかどうか。高い楽器を買うときのポイントは、この2点と言っても過言ではありません。

目で見て、色や形が気に入るものにしましょう。
触ってみて、好きだと思えるものにしましょう。
弾いてみて、音色や振動が心地よいものにしましょう。
好きか嫌いか、ピンと来るものにしましょう。
恋人や伴侶を決めるときと、同じです。


耳元で聴こえる音が好きか、が 何よりも大切ですが、少し離れたところからどう聴こえるかも確認しましょう。
お店の方に弾いてもらってもいいし、知人を強制連行してもいいでしょう。先生に頼んでもいいかもしれません。

同じ楽器でも、違う人が弾くと 違う音が出ます。楽器のポテンシャルを知るという意味では、自分より上手な人に弾いてもらえたらいいですね。専門の楽器店のスタッフには、音大のバイオリン科を出られた方もいます。そうした方に弾いてもらいましょう。

値段が納得のいくものかどうか、確認するひとつの方法は、他の楽器と比べることです。いま使っている楽器と比べる。友人の楽器と比べる。候補の楽器を弾き比べる。

ここで楽器を買わなかったら、そのお金でなにが買えるか想像してみる。また100万円で買ったあと、本当は50万円だったと発覚しても、「自分には100万円の価値があった」と思えるかどうか。