顎当ての交換や高さ調節は、自分でもすることができます。今使っている顎当ての形状(モデル)が、自分に合っているか気にかけましょう。
弦の交換やペグ調弦ができるなら、顎当ての交換は難しくありません。自分で顎当ての交換や高さ調節をした場合は、毛替えなどでバイオリン工房へ出向いた際に、おかしくないか職人さんにチェックしてもらいましょう。

(1)自分に合う顎当てを探す

顎当ての原型が作られたのは200年ほど前ですが、今に近いものになったのは100年ほど前らしいです。(詳しくは分かっていません。)
肩当てはさらに後で、1900年代半ばでも、まだ肩当てをすることは一般的ではなかったようです。
肩当てが登場する前は、楽器底面のエッジ中央を、左鎖骨の上に乗せて弾いていました。

①顎当ての高さ

肩当てを取り、楽器底面のエッジ中央を左鎖骨(の右端)に置いて、顔をちょっとうつむき加減にしたときに、左顎の下まで埋まるくらいがいいです。(肩当てを付けて同じ状態にならないのは、肩当てが高すぎます。)

自分でやると、崩れた姿勢で判断してしまうことが多いです。自分は普通に立っているだけで、人に当てがってもらうといいです。1人でやるばあいは鏡を使い、両腕を左右対称に動かし、鎖骨や肩の位置が左右対称になるようにしてください。

現代人は、ストレートネックになっていたり、鎖骨が本来の位置より下がっていることがあります。それを加味しないと、誤った判断をして、ストレートネックや鎖骨の下がりを助長してしまいます。

分数バイオリンやビオラでは、顎当てが高すぎるのはよくあることです。ビオラが弾きづらく感じるときは、顎当てが高すぎないか確認してみましょう。バイオリンを構えたがらない子供の顎当てを低くしたら、突然たくさん弾くようになったこともあります。

②顎当てのカーブ

手前から前方へ向かってのカーブと、左右のカーブを、確認しましょう。左下顎と合わなすぎても違和感があるし、ぴったり合って遊びが無いのもいけません。手前から前方へのカーブは、深めだと構えたとき楽ですが、長時間弾くと疲れてきます。

③顎当ての脚

顎当てには、脚がテールピースをまたいでいるタイプと、脚が2本ともテールピースの左側にあるタイプがあります。
楽器にかかる負荷が少ないのは、脚がテールピースをまたいでいるタイプです。バイオリン・ビオラの中央、エンドピン周辺は、弦の張力がかかる部位なため、楽器内部に補強材が入っています。
しかし楽器を痛めないことより、体を痛めないことの方が大切です。

④顎当ての探し方

市販の選択肢のなかから選ぶのが、現実的です。
2019.07.25 顎当てと肩当ての 合わせ方


顎当てを作ったり削ってくれる職人さんもいます。しかし手間がかかる=作業代がかかる上、気に入るようにはなかなか仕上がりません。何個も職人さんに削ってもらい、自分でも削ったことのある私の結論です。

欧州の工房で作られた顎当て(ビバラムジカの肩当ても)は、1点1点ビミョーに違います。ロットが異なると、全然違う商品じゃん!と思うこともあります。同じ製造元、同じ名称の商品なら、寸分たがわず同じでしょう!という日本の工業製品とは違います。友人のが良かったから、と取り寄せ注文しないように。現物を確認して購入しましょう。

製造メーカーや商品によっては「寸分たがわず同じ」な場合もあります。プラスチックやカーボンなどの成型ものは、そうです。希望に近い!と感じる顎当てがあったら、それが木製だったら、個体差を確認してみましょう。

市販の選択肢のなかから選び、あともう1削り!と思う箇所があれば工房で削ってもらう。のがいいんじゃないでしょうか。私がストックしている分数バイオリンの顎当ては、そうしています。

(2)顎当ての取り外し方、取り付け方

見たとおりの機構です。金具の脚の穴に、棒状のものを差し込んで、ネジを緩めたり締めたりします。締め具合が強すぎないよう気をつけましょう。また弱すぎると顎当ての位置がずれてきます。

左側は、バイオリン工房でも使っている専用器具です。右側は、昔 顎当てを買うとオマケのように付いていた器具です。しかし使われず捨てられることも多く、コスト削減もあったのでしょう、最近は姿を消してしまいました。
買った顎当てに専用器具がついていない場合は、代用できそうなものを見つけてください。布団針が使える、と聞いたことがありますが、試したことはありません。何を用いるにしても、楽器本体に傷をつけないよう、気をつけてください。

顎当てを交換したあとは、顎当てとテールピースが触っていないか必ずチェックしてください。見えないときは、紙などを隙間に差し込んでみてください。経年によるコルクのへたりも計算に入れて、隙間を確保してください。顎当てとテールピースが近すぎると異音の原因となります。

気に入った顎当てがテールピースに触ってしまうと判明しても、諦めるのは早いです。顎当ての底面を削ればいいのです。よくある対処法です。またテールピース側を削ったり、交換することもできます。バイオリン工房の職人さんに相談しましょう。そういう相談に乗ってくれる人に、お世話になりましょう。

(3)顎当ての高さ調節

①顎当てを低くしたい

顎当てを低くしたい場合は、顎当てそのものを交換するのが早道です。
(1)④顎当ての探し方 を参考にしてください。

顎当ての底辺にくっついているコルクがぶ厚ければ、削って低くすることも可能です。しかし わずかしか変わりません。またコルクが、削れるほど厚いことはあまりありません。コルクは年月が経つにつれて へたって薄くなります。薄すぎると楽器への負荷が増すので削らない方がいいです。

②顎当てを高くしたい

顎当てを少し高くしたい場合は、コルクを足します。ワインのコルク栓を削ってもいいですし、100均やホームセンターで探すと、コルクのコースターなど使えそうなものが見つかります。
枚方のバイオリン工房で職人さんに「お使いのコルクを分けて(買わせて)ください」と頼んだら、「その辺で買ってきたものです」と言われました。(笑)
顎当ての左右の高さを、コルクで変えることもできます。(「楽器大切派」からは睨まれそうですが。)

どの程度までならコルクで高くしても問題ないのか、見解は分かれるでしょう。
過去最高の高さでは、硬い紙を折りたたんで挟み7~8mm高くしてあげた生徒がいます。自宅教室なら肩当てのストックがあるのですが、楽器店の教室だったので、その場にあるモノでしたのです。専門の楽器店かバイオリン工房へ行って、顎当てを交換してもらってください、と言ったのですが、来なくなってしまいました。
数mm高くしたい場合はコルク。それより高くしたい場合は、顎当てを交換しましょう。
2022.09.04 枚方の工房にて、顎当てコルクの調整