JR奈良線 玉水駅駅前にある「カフェ志木」で、客寄せのバイオリンを弾くことになりました。平日昼間なので、お客様は、近所に住んでおられる方、近隣でお仕事をされている方です。

選曲は、ポピュラー曲や、みんなが知っているクラシック曲のなかから考えます。ピアノ伴奏なし、バイオリンだけの演奏でサマになるもの。
同じ雰囲気の曲が続かないよう、ゆったりしたものと、ノリのいいものを折りまぜたいのですが、ノリのいい曲はメロディとメロディの間をつなぐビート担当楽器(ピアノなど)が無いと、サマにならなかったりします。
また同じリズムの曲が続くと退屈なので、4拍子・2拍子ばかりでなく、3拍子の曲を入れます。


3拍子と言えばシューベルトの「未完成」。交響曲は普通4楽章あるのに、2楽章までしか書かれていません。シューベルトはこの曲を、3楽章のスケッチまで作って、中断してしまいました。
その理由は、1楽章も2楽章も3拍子、3楽章のスケッチも3拍子、それで行き詰って止めてしまった、とも言われています。
聴いていただければ分かるとおり、1楽章も2楽章も完成度の高い素晴らしい曲。4楽章までの交響曲として完成させるために拍子を変えるなんてダメ!  と誰しも思うでしょう。ゆえに「未完成」は、「未完成」なのに、ひんぱんに演奏会で取り上げられます。
うまく続かなくなった曲を、途中で止めてしまうことの多い作曲家ではあったようです。


イベントのプログラムを考えるときに、いちばん検討に時間がかかるのが曲順、曲と曲をつなぐための編曲です。曲の調には、つながりやすい=転調しやすい「近親調」と、つながりにくい「遠隔調」というのがあります。

モーツアルト以前くらいの時代は、「遠隔調」による転調は、教会によって禁止されていました。だから古い時代のクラシック曲には、意表をつくような展開(転調)があまりありません。

(a) 例えば、ト長調とト短調はつなげやすい。
根音(移動ド)が一緒だからです。

(b) ト長調とホ短調もつなげやすいです。
どちらもシャープ1個だから。

いずれも「近親調」なのですが、(a) だと自然すぎてつまらない。(b) のほうが、気のきいた感じがします。
同じ長調同士(または短調同士)のばあいは、根音が5度上or5度下が「近親調」になります。
また根音を2度上げるのも、つながりやすいです。歌謡曲のサビで盛り上げる転調の、常套手段です。
(c) ト長調に対する短調の例をもうひとつあげると、ロ短調も楽典上は「近親調」です。しかし「近親調」のなかでは最も遠い関係にあり、違和感があります。

かように、自然に感じるつながり方のパターンは、限られています。

選んだ曲のオリジナルの調を調べて、「近親調」でつないで行けないと判明したら、曲を変えるか、演奏する調を変えます。
ディズニーやジブリは、巷の事情に合わせて様々に編曲され、日頃から色んな調で流れているので、何調であってもさほど気になりません。しかし歌謡曲などは、歌い手さんの声質を含めて記憶されているので、調が違うと違和感があります。


バイオリン・ビオラ・チェロの弦楽器たちには、弾きやすい調、弾きにくい調というのもあります。弦楽器はシャープ系の調が弾きやすい。管楽器はフラット系が吹きやすいと言われます。(管楽器の管による)

京田辺市役所ロビーコンサートでジブリメドレーを作ったとき、なぜ「君をのせて」が、バイオリンではオリジナルの調で演奏されないのか、合点がいきました。

フラット6つ!

ポピュラー曲には、調号(シャープやフラット)がやたらと多いものが結構あります。クラシック曲にはあまりありません。そのためクラシック奏者は、調号が多いとブーイングしたくなります。

曲順が決まったら、つなぎかたを検討します。たいてい経過音が必要なので、どういうものを入れたら似合うか、その音程や、音符の長さを考えます。同じ手法でつないでいると飽きられるので、色々なやり方を考えます。しっくりこない場合は、予定にない調も試してみます。