バイオリン・ビオラをどこで買ったらいいか、初めてのときは分からないものです。もっと良いもの・高いものに買い替えたいばあいも、どこで買うかは悩ましい問題です。

バイオリン・ビオラ・チェロは手工芸品です。数十万円 以下のバイオリンは工場で作られていますが、材料が木であるため、家電製品のように品質が一定ではありません。それ以上のバイオリンは工房で作られており、それぞれが1点モノです。

工場製であっても、メーカーは何十社、ブランドはその数倍あります。よく名前を聞く老舗メーカーでも、製作年が違えば材料が違い、製造国が違い、工程も変わります。どんなバイオリンと出会えるかは運命にお任せするしかありません。

自分の意思で選択でき、はっきり違いが出るのは、「どのお店で買うか」です。目利きの人が見ておかしな楽器は、仕入れではじかれます。また調整により、音色や弾きやすさが大きく変わります。

どこで買うかにより、その後のメンテナンスの費用や精度も変わってきます。なにを買うかではなく、どこで買うかが大事なのです。

(1)お店選びの前に知ってほしいこと
(2)バイオリンが買えるお店
   ①バイオリン工房
   ②バイオリン・ビオラ・チェロ専門の楽器店
   ③いろんな楽器を扱っている楽器店
   ④ネットの楽器店
   ⑤メルカリやヤフオク

(1) お店選びの前に知ってほしいこと

①どんな困ったことが起きるのか

安いバイオリン、または調整不足のバイオリンを買ったばあい、こんな困ったことが起きます。

①音が出にくい→やる気が出ない→練習しなくなる
②調弦しにくい→調弦に時間がかかる→弾く時間が減る

③トラブルや故障が起きやすい
これまで下記のような出来事がありました。

 ・本体が破損する
 ・調弦できない
 ・異音がする
 ・弓が使えない

買ったお店へ持っていけば無料で修理してもらえるハズですが、修理ができない、修理を受けつけていないお店もあります。そうしたときは、教室が紹介するバイオリン工房へ行ってもらい、正価の修理代で直してもらいます。

ある楽器店で買ったバイオリンの状態が、良くなかった生徒さんがおられました。その楽器店は修理できなかったので、京都のバイオリン工房へ持っていってもらいました。もちろん正規の修理代を払うつもりでした。ところが昔気質の職人さんは、販売店が責任を全うしていないことに怒り、販売店で無料で直してもらうべきだと言い、直してくれませんでした。(違う工房へ持っていきました。)

初心者向けバイオリンや分数バイオリンに、アジャスターが付いていないものもあります。バイオリンを始めたての方が、ペグで調弦することはできません。ペグ調弦できないお客様に、アジャスターが付いてない楽器を売るのは、おかしいと思います。

④なかなかレッスンに入れない
状態の良くないバイオリン、調弦がしにくいバイオリンは、レッスンに入る前にやることが沢山あります。
なにも問題がなければ、バイオリンの弾き方を教えるところからスタートできます。しかし弦が粗悪なら交換せねばなりませんし、弓の毛がぼろぼろなら毛替えせねばなりません。どう悪いかの説明、直し方の選択肢の説明、どこへ行けばいいかの説明、修理費の説明、そういった話をしなければなりません。

②価格帯について

分数バイオリンや大人の初心者さんには、税込7~9万円のセットバイオリンをお勧めします。楽器と弓とケースがセットになっています。中古でさがすと5~6万円であります。バイオリン・ビオラ専門の楽器店で買うなら、新品より中古がむしろお勧めです。

このクラスのバイオリンは、楽器と呼べる、最も安い製品です。各メーカーがしのぎを削る、コストパフォーマンスの良い価格帯です。ビオラは、バイオリンより少し高くなります。

小さな子供さんは、これから何回かサイズアップしなければならないのに、8万円は高いと感じられるかも知れません。しかし分数バイオリン数台の値段は、アップライトピアノ1台(または優れた電子ピアノ1台)の値段です。
サイズアップするとき、買ったお店に持っていけば下取りしてくれます。子供や孫も使えます。


5万円出すのは厳しい・・という方は、新品8万円クラスより下位グレードの、中古を探してみてください。
下位グレードを検討する場合は、上位のラインナップが在るメーカーにしましょう。例えば5万円のセットバイオリンを検討する場合は、そのメーカーが8万、12万、20万というように上位のラインナップも出しているかを確認してください。上位ラインナップのないメーカー・ブランドのものを買ってはいけません。

8万円グレードより安いバイオリンは下取りの対象になりません。また弓は、毛替え料金 以下の値段のものが付いています。


初心者さんや分数バイオリンであっても、もう少し高いものを買われる方もいます。8万円クラスの楽器と、1.5倍の値段の12万円クラスの楽器を比べると、音色があきらかに違います。

数十万円の予算なら、セットではなく、バイオリン本体と弓を別々に選ばれるといいでしょう。
またバイオリン本体に50万円(以上)かけられるなら、新作ではなくオールドをお勧めします。エイジングにまさる品質はありません。

③メーカー・ブランドについて

安いものは工場で作られています。経営している人と、現場監督してる人と、作っている人は別。工程ごとに作業者が変わります。工作機械を多用します。
30年ほど前に、資本があればバイオリンが量産できる時代が幕を開け、低価格帯のバイオリンの質が飛躍的に上がりました。

工場製のバイオリンメーカーは、世界に何十社とあります。一般的に信頼を得ているメーカー名を書きたいのですが、グローバル競争社会は動きが早く、メーカーもブランドもがんがん変わってゆきます。

もし気に入ったバイオリンが、評判のわからないメーカーの場合は、
●何年続いているメーカーか
●専門の楽器店で取り扱っているか
●8万円セットより上のグレードがあるか
などを目安にするといいと思います。

高いものは工房で職人が作ります。1人の担当者が、木を選ぶところから最終仕上げまで、主に手作業で作ります。

欧州では、親方1人に修行中の職人さんが何人かいたり、家族・親戚が加わったりなど、数人~十数人の工房が多いです。工房により体制が様々なので、割高なバイオリンと割安なバイオリンがあります。日本は1人でやっている工房が多いです。

工房製の新作バイオリンは、日本・東欧のものがお勧めです。イタリア製は割高です。中国の工房製(工場製ではなく)の良いものも数回見かけました。

中でもイチオシは日本の職人さんが作ったもの。とにかく品質が高い。楽器製作の国際コンクールで入賞する職人さんも多くおられます。作り手と買い手の距離が近ければ近いほど、作り手は良いものを提供しようと努力します。(バイオリンに限らず)
フルオーダーではなく、出来上がったバイオリンのなかから気に入ったものを選び、少しカスタマイズ(ネックを細くする等)してもらうのがいいでしょう。

(2) バイオリンが買えるお店

バイオリンの製作現場に近いところから、順に説明していきます。

①バイオリン工房

バイオリン工房の職人さんは、バイオリン・ビオラ・チェロの販売もしていますが、作ったり直したりするのが主な仕事です。工房に、売り物のストックはありますが、数十万円のものが多く、数百万円も少しあります。

そのため安いバイオリンは、予算を伝えて、取り寄せてもらうことになります。メーカーやブランドはお任せするのがいいと思います。工房なりの見解や、取引の事情があるからです。希望メーカーがあれば、それを取り寄せてくれることもあります。

楽器を引き渡すときは、点検・調整をしてくれます。いろんな楽器を扱っている楽器店では、メーカーから送られてきたバイオリンセットは、そのままお客様に渡されることが多いでしょう。


いわゆる楽器店はどこも事業内容がだいたい同じですが、工房は違います。経営者(職人さん)の考え方によるのです。 工房で作った楽器しか販売していない(販売した楽器しか修理や調整はしない)ところや、肩当てやチューナーなどの関連商品をあまり置いていないところもあります。

バイオリン工房の難点は、事業が小規模であるがゆえに、取り寄せてもらったバイオリンが気に入らなくても断りにくいことです。(もちろん断っていいんです。) また日曜祝日はお休みです。ふらっと立ち寄っていいと言ってくれる工房もありますが、基本は予約がいります。

工房の職人さんは、弦楽器製作者協会に属している方も多いです。下記のリンク先でご覧になってみてください。属していない方もおられますが、属していないから信頼できない、ということではありません。職人さんは1人で自立して商売をされているので、考え方が多様なのです。

関西弦楽器製作者協会

②バイオリン・ビオラ・チェロ専門の楽器店

初めてバイオリン・ビオラを買うとき、一番お勧めなのは バイオリン・ビオラ・チェロ専門の楽器店 です。

「弦楽器」と呼ぶとギターやマンドリンも含まれてしまいます。ちょっと長いですが「バイオリン・ビオラ・チェロ専門の」という言葉遣いにしました。コントラバスは属が違うので、扱っているところと いないところがあります。反対にコントラバスonlyの店もあります。

バイオリン・ビオラ・チェロ専門の楽器店では、そこに並んでいるものの中から楽器を選ぶことができます。価格帯は、バイオリン工房より幅広く対応していますが、安い楽器は仕入れてくれない楽器店もあります。取り寄せてもらっても、買うかどうかは現物を触ってから決めることができます。予約なしで立ち寄れる点もありがたいです。

お客様の応対をしてくれるのは、バイオリン・ビオラ・チェロの専門知識を持った販売スタッフです。中には音大でバイオリンを専攻してきた方もおられ、道具目線の工房の職人さんより、「弾き手」の気持ちを分かってもらえることがあります。

関連商品の取り扱いも充実していることが多く、日曜祝日もやっています。バイオリン・ビオラには、必須 且つ 選ぶのが難しい付属品が色々とあります。そういう細々とした商品は、お店側にとっては手間はかかるけど売上につながりにくいのです。

予約なしでも立ち寄れると書きましたが、予約してから行った方が良いことがあります。予算に合う楽器が複数台あるかどうか、事前にわかります。また希望に近い楽器は、その場で引き渡せるよう点検・調整をすませておいてくれたりします。

職人さんが常駐している楽器店と、外注の楽器店があります。どちらか選べるなら常駐がいいです。楽器や弓を預けなくてすみ、職人さんと直接やりとりができます。変な音がする、なんだか弾きにくい、といった困りごとの場合、職人さんと直にやりとりできるメリットは大きいです。

毛替えや調整を頼むときは、工房と同様 予約をしてください。職人さんは1人体制のことが多く、お休みの日もあります。
ちなみに外注の場合、実作業を請け負っているのは①の職人さんです。

③いろんな楽器を扱っている楽器店

店舗数が一番多いのは、このタイプの楽器店ではないでしょうか。いろんな楽器を扱っていても、専門知識のあるスタッフさんがいる②に近い楽器店もあります。

①工房 や ②専門の楽器店 へ行きたくても、遠方にしかない場合もあります。遠方まで行く価値はあるのですが、それくらい「いろんな楽器を扱っている楽器店」とは違うのですが、小さなお子さんがいたりすると現実的に無理だったりします。そう考えると こういったお店の存在もありがたいものです。

沢山ある楽器のひとつとしてバイオリンを扱っているので、専門性を求めることはできません。弓の毛を張ることや、肩当てが必要なことを知らない店員さんもいます。バイオリン弦が30本ほど置いてあるのに、A線が1本も無い楽器店もありました。

新作のセットバイオリンは、販売店での点検・調整なしにお客様へお渡しできるよう、メーカー側がペグの調整やアジャスターの取付をするようになってきました。1年保証も付いていたりします。③④経由で購入しても、比較的安全です。

毛替えや調整は、職人さんが常駐していない「専門の楽器店」と同じ体制のところが多いです。

教本を買うのにはとても助かります。付属品の取り寄せは、店員さんの理解が浅いと違う物が届くこともあるので、気をつけましょう。

④ネットの楽器店

ネットの楽器店にも様々な形態があります。

②バイオリン・ビオラ・チェロ専門の楽器店 や ③いろんな楽器を扱っている楽器店 が、ネットショップを持っていることもあります。その場合は、実店舗と同じと考えて差しつかえないでしょう。

また ①職人さんの工房 が、工房へ足を運んでくれたことのあるお客さんに、遠距離対応してくれることもあります。大阪の工房の職人さんは、分数バイオリンのサイズアップ時、電話で注文を受けて点検・調整したものを宅急便で送っています。

実店舗のないネットの楽器屋さんも、良心的なところはあります。実際にいくつか知っています。ただ怪しい(一定の技術レベル・サービスレベルに達していないと思う)ところが多いことも事実です。

見分ける方法としては、
●何年前から事業をしているか
●お店の方針や商品説明などの書き込み(長年お客さんの信頼を得ているなら、相当の書き込みがあるはず)
●電話で問合せを受けているか(実際に電話してみましょう)
などを確認しましょう。

⑤メルカリやヤフオク

2021.11.21 アタリもあればハズレもある、ネットの中古バイオリン
2025? 中古バイオリンを、ネットで売り買いするとき coming soon