9月下旬、WWOOFという仕組みを利用して、北海道の牧場で8泊9日 牛のお世話をしてきました。WWOOF(ウーフ)は、World Wide Opportunities on Organic Farmsの略。オーガニック農場などで、労働力や知識を提供する代わりに、食事や宿泊を提供してもらうボランティアシステムです。世界中60カ国以上どこへでも行けます。

北海道の真ん中、旭川市のすこし北に、美深(びふか)という町があります。JR美深駅から東へ20数キロ、仁宇布(にうぷ)という集落に牧場はありました。さらに東へ20~30キロ行くとオホーツク海に出ます。

関西から移住した塩崎さんご夫妻と子供4人、知人の子供1人。家での会話は関西弁で、たまに外で集落の住人に合うと「あなたイントネーション変ね?」みたいな顔をされて、ここは北海道だった!と気づくのでした。

人間以外には牛50頭、鶏8羽、羊1頭、猫3匹。テレビは無いのですが、にぎやかで全く気になりません。床板を自分で張ったり、冷蔵庫は屋外にあって冬は電源を落としたり、私と共通点が多い暮らしぶりでした。

牛飼いの日々の仕事は、搾乳、餌やり、掃除。この3つです。放牧すると、牛を移動させるのが大変なのですが、餌やりと掃除が楽になります。放牧地さえあれば、放牧は人間にとってもメリットがある飼い方なのです。

日本の多くの酪農家は放牧しません。それは消費者の近くで牛を飼っていた牧場が、規模を拡大したからです。牛は搾乳や掃除のときをのぞき、せまい牛舎のなかでご飯を食べ、うんちをします。

搾乳や掃除のときは牛を移動させるパターンが多いのですが、牛をまったく歩かせない飼い方もあります。方向転換もさせず、お尻の位置を変えさせないので、排せつ物の処理もシステマティックにしやすいのです。牛は舎に入るとき、殺されるため舎から出るときだけ、歩くことを要求されます。歩き方が分からない、歩けない子も、いるそうです。

北海道の前にWWOOFした牧場は、牛たちの行動の自由度はそれなりにありましたが、足元は糞尿でぐずぐずでした。牛舎でしゃがみたくなったら糞尿に浸るか、浸りたくなければ立っているしかないのでした。

牧草が主食になると、牛は乳をあまり出さなくなります。というか、本来の乳量に戻っていきます。舎飼い&穀物飼料の半分くらい。つまり収入が半分になります。でも「支出が少なく利益は出ている、精神的にゆとりがある」と塩崎さんは言いました。

放牧は、牛1頭につき1ヘクタールの牧草地が必要と言われます。塩崎さんの牧場では、50頭に対し牧草地は100ヘクタール!
食べ放題!
木陰も渓流もある。遊び放題!

放牧されている牛を見ていると、立って食事をしているか、しゃがんで休んでいるかのどちらかです。みんなの足腰のガッシリしていること! 牧草を食べている牛たちはお腹が横に膨れます。

朝は5時起床。牛舎の周りにたむろしている牛たちを呼び集めます。お乳をしぼってもらった方が身軽で楽になるのか、おおむね素直に牛舎に入ってくれます。それぞれ決まった位置に入るよう誘導し、搾乳できるようつなぎます。

塩崎さんの搾乳機は、牛のいる場所まで運んでいくスタイルのものです。牛のお乳と、空中にカーテンレールのように配管されている管をつなぐと、機械が搾乳をしてくれ、タンクへ牛乳が流れてゆきます。田んぼで言うと、稲刈り機ではなくバインダー(手押し車)タイプ。

搾乳が終わったら牛たちを牧草地へ出して、舎内のウンチ掃除。何日かにいっぺんは敷き牧草の交換をします。

夕方4時半、放牧地に散らばっている牛たちを呼びにいきます。塩崎さんが搾乳の準備をしている間、私が1人で「牛追い」するのですが、彼らのご機嫌がうるわしくないときは1時間かかります。

牛は集団生活を営む動物で、食事タイム、水場へ行くタイム、座って休息タイムなどがあります。「さて、もうちょっと牧草を食べるか」みたいなタイミングだと、ハズレです。大声を出しても、お尻を押しても、優しく話しかけても動きません。でもボス(塩崎さん)が呼ぶと動き出します。

呼び集めた牛を、牛舎のそれぞれ決まった場所につなぐ時、ほほを私に摺り寄せてくる子もいました。でっかい目が至近距離からこちらを見つめています。子牛たちは脚が細くて身体が小さく、でっかい目と耳が小鹿のバンビちゃんのようです。

夕方6時すぎ、搾乳が終わると、舎の外へ出します。周辺を自由にうろうろできますが、遠くへは行けません。そしてまた掃除。舎内には搾乳タイムの1時間強しかいないのに、ウンチの量のすごいこと。

5月中旬から11月中旬は、これだけです。

11月中旬~5月中旬、牛たちは牛舎で過ごします。(積雪しても放牧地で過ごさせる牧場もあります。)そのため人間が餌やり&掃除をせねばなりません。彼らは1頭あたり、1日に数十キロの牧草を食べ、数十キロの糞尿を出します。牧草は、夏から秋にかけて、刈って保存しておかねばなりません。

牛は本来、草を食べる生き物です。人間は乳をたくさん得ようと品種改良し、穀物を食べさせるようになりました。ホルスタインという品種は、人間が無理な改良をして乳量を増やした牛なのです。
米国などから輸入された穀物は、農薬・化学肥料でそだてた遺伝子組み換え作物で、収穫後にも虫がわかないよう農薬をかけた餌です。さらに欲を出して牛骨粉なども食べさせます。

家畜へは一般的に抗生物質が投与されます。「抗生物質が良くないことは分かっている、耐性菌が出現する、でも病気を防ぐ有効な手段だから止められない」という言い訳がよく聞かれます。しかし投与する一番の理由は、家畜が早く大きくなるからです。メカニズムは未解明ですが、かかる飼料代に比べて、得られる乳量や肉量が増えるのです。
日本では年間200トン以上の抗生物質が家畜の飼料に添加され、糞尿中には耐性菌が増えることが分かっています。

作業の効率化、衛生面などを理由に、多くの牧場では牛や豚の尻尾を切りますが、塩崎牧場では切っていませんでした。
牛は尻尾で感情表現することがあります。いつも私の顔をめがけて、ウンチのついた尻尾をヒットさせる子がいました。確信犯だと気づくまでに何日かかかりました。私に親愛の情を示してくれる子もいれば、気に入らん奴だと思ってた子もいたわけです。

また牛は、メスでも角がある動物です。角があると、牛にその気がなくても、人に怪我させてしまうリスクがあります。塩崎牧場でも迷っていて、除角してる子としてない子がいました。

尻尾も角も「節約」「効率」のため麻酔をかけないで切断します。牛の角は、神経も血管もつながっていて、切ると血が噴き出します。焼きゴテで止血します。失神したりショック死する子もいるそうです。

NHK朝ドラ「なつぞら」の時代は、除角自体があまりされていなかったそうで、本当は牛に角がないといけなかったようです。

帰宅して玄関のドアを開けると、建材の化学物質臭がしました。長期間 閉め切っていたから溜まったのでしょう。普段気づかずに吸ってるんですね。