バイオリン・ビオラを弾くときの、右手/右腕/右半身 のおしごとを、整理してみました。
①手を持ち上げる
「手を上げる」というおしごとは、②~④の土台となるため、大変重要です。腸腰筋・広背筋・大胸筋を使い、前鋸筋・僧帽筋は使わないよう意識します。
上腕を上げるのに、上腕筋に力が入っていることがありますが、持ち上げる部位に力をこめるのは意味がありません。
②弓を持つ
弓を「持つ」というおしごとは、「弾く」前に終わっていることが肝要です。
てのひらの上半分ではなく下半分、手根骨 付近の筋肉を使って、弓を手のなかに収める「型」を作ります。これから行う仕事に適した柔軟性を残した状態、必要最小限の力にします。
よくある悩みは、強く握ってしまうことでしょう。
弾いている最中にゆるめる指示(イメージ)を出してみましょう。弓の折りかえしや移弦の直前にゆるめると、効果が実感しやすく、ゆるめる癖が定着しやすいです。
型も崩れてくるので、整えなおす指示を出す必要があります。
よい状態が長く保てれば、脳の処理能力を使わずにすみます。その分ほかのことに脳を使えます。
右手の型や、右手への指示の出し方について、レッスンではおひとりづつに合った具体的な方法をアドバイスしています。
③弓を横に引く(ダウン・アップ)
メインのおしごとです。弓を引く(こする)ことにより、バイオリンは音が出ます。
ダウンの方向と、アップの方向。動きのパターンは2つしかありません。弦により弓の角度が異なりますから、「アップダウン ✕ 弦」で考えると全部で8パターンです。
しかしデタシェとマルトレでは動かし方が違います。短い弓と、ロングトーンも違います。置いてスタートさせるのと、空中からスタートさせる(スピッカート)のも違います。
さらに同じデタシェでも、弓の使う場所によって違います。デタシェもマルトレも、弓先でするのと、弓中でするのと、弓元でするのでは、右手の使い方は全然違います。
弓を引くというおしごとのパターンは、無限にあると言えるでしょう。『右手のおしごとは何?』と問われて、『弓をアップダウンに動かすこと』と答える生徒さんが多いのも、うなずけます。
私がこのように分けて考えるようになったのは、大人の初心者の生徒さんを見ていて、「持つ」ために使う脳&筋肉と、「引く」ために使う脳&筋肉が違うことに気づいたからです。
「持つ」のがうまいのに「引く」ができない、しっかり「引く」ができるのに「持つ」が改善しない、様々なケースがあります。「持つ」と「引く」が同じ指令によるおしごと(能力)なら、こんな現象は起きません。
子供はまだ能力が分化していないため、「持つ」と「引く」は分かれていません。分けられません。大人で始められた方は、別の動作なのだと理解することで、訓練しやすくなります。
私も4歳でバイオリンを始めたので、長年まったく意識せず練習してきましたが、「持つ」と「引く」が組み合わさっている動きと捉えるようになってから、自分の弾き方も進化しました。
④移弦する
どの弦からどの弦へ移動するかは、E⇔A、A⇔D、D⇔G の6パターンあります。
ダウンアップか、アップダウンか。ダウンのスラー中か、アップのスラー中か。これにより6✕4=24パターン。
弓のどの場所で移弦するかや、音符の長さ(速度)によっても違います。移弦後の次はどこへ行くのか。その弦にとどまるのか、元の弦に戻るのか、さらに違う弦へ行くのか。③ほどではありませんが、かなり多様なパターンがあります。
「引く」と「移弦」は異なる動きです。スキルアップしたいなら、「引く」と「移弦」を切り離して練習してみましょう。
「移弦」とは、三次元の空間におけるどういう動きなのか。を理屈で理解することも、大人の生徒さんには有効です。それを意識してもらうための練習方法もあります。
なお大人の生徒さんでも、子供のように「持つ」「引く」「移弦」を分化して理解・練習するのが向かないタイプの方もおられます。そうした方を、ほかの大人さんと同じ教え方でレッスンすると、混乱させたり弾き方を悪化させたりしてしまいます。