英国王立音楽検定(ABRSM)の課題曲集をご存知でしょうか?
ABRSMは130年前に設立され、90ヶ国で毎年60万人以上が受検しています。日本でも受けることができ、グレードによっては大学入試で有利になることもあります。ピアノ、バイオリン・ビオラ・チェロのほか、管打楽器や声楽などで受けることもできます。
そのABRSMの課題曲集は、同志社国際の子供がレッスンに持ってきたことで知りました。そのときは彼女がスズキやシェラディックも持っていたため、ABRSMの教材は使いませんでした。
しかし今年、KIUアカデミー(京田辺のインターナショナルスクール)の子供さんが、ABRSM課題曲集の1巻(グレード1)を持ってきました。この本をそのまま使い続けてあげるのが良かろうと感じ、初めてその内容をまじまじと見たとき、まずその選曲に驚きました。
●バルトークがある!
●9曲のうち2曲が短調、3曲がトラディショナル(英国の伝統音楽)。
● 6/8拍子の曲もあります。
スズキや新しいバイオリン教本の1巻に短調はありません。スズキで短調が出てくるのは2巻の中ほど、6/8拍子は4巻です。
子供向け初心者向けの多くの教本は、最初は長調ばかりです。ピアノ教本もそうだと思います。でもよく考えたら「かごめかごめ」など、童謡や民謡に短調はたくさんあります。子供・初心者はまず長調から、というのは専門家の思い込みなのかも。
バルトークは子供のために短くシンプルな練習曲をたくさん書いており、生徒にこういう曲もさせられないかと以前から思っていました。しかしバルトークの曲集となると、1曲目から最後までバルトーク節(あたりまえだけど)です。せんせー、なにこのへんなのー、という声が聞こえてきそうです。
1曲(1頁)だけコピーしてやらせる、という手もありますが、これまでの経験からコピー譜や手書き譜は(物体的にも脳味噌的にも)散逸しやすいため、次第に用いなくなりました。やはり冊子となっている教本を順番にやると、わかりやすく、手応えも感じやすいようです。
バルトークが子供のために書いた曲。kinderはドイツ語で子供、stuckeは小品という意味。
ABRSMの教材は、課題曲集のほかに、スケール&アルペジオ集、初見例題集や聴音例題集などがあります。音楽検定のための教材だからです。
子供や初心者に使いやすいスケール教本が見つかっていないため、スケール集にも興味がありましたが、まず課題曲集をレッスンに取り入れてみることにしました。
※後日スケール教本も調べてみましたが、低いグレードから変則的な素材が多く、使えないと判断しました。
1から8までのグレードがあり、理念と選曲がまったく違うので単純比較はできませんが、難易度はスズキの「巻」と同程度です。
どのグレードも、カテゴリA3曲、カテゴリB3曲、カテゴリC3曲の全9曲という構成。検定試験ではABCから1曲づつ選んで弾く。と保護者さんから教えてもらいました。ABCのテーマは、グレードによっても版(4年毎)によっても変わります。
例えばグレード6ですと、Aはバロック。どれも開放弦の音色が似合いそうな曲で、1曲目はヘンデル、2~3は知らない作曲家です。
Bはロマン派のちょっとエキゾチックな短調、キュイ、グルック、クララシューマン。
Cはクラシックの王道?をはずした選曲で、1曲目は7/8拍子。2曲目は小節により3/4拍子で書いてあったり、6/8だったり 9/8だったりする。「拍が取りにくい」がテーマかと思いきや、3曲目はタンゴ。「拍が独特」がテーマのようです。
通常 教本やクラシック曲集は易しいものから順に並んでいますが、ABRSM課題曲集はそうではありません。順番にこなしていくと同じカテゴリの曲が続くので、A1→B1→C1→A2と進むのがいいかも。
課題曲集はグレード毎に3種類あります。
・ピアノ伴奏譜が付いていない
・ピアノ伴奏譜が付いている
・ピアノ伴奏譜とCDが付いている
ササヤ書店などクラシック楽譜専門店では手に入りません。買えるのは
●日本のABRSM事務局
在庫があれば数日で届きます。5000円未満だと送料500円がかかりますが、価格が一番安いので、送料がかかっても他より安いことがあります。
● amazon
輸入するので数週間かかります。
●ヤマハミュージックWebShop
値段も高く、輸入するので数週間かかります。
日本のバイオリンレッスンでは、「スズキ」「新しいバイオリン教本」「篠崎バイオリン教本」のいずれかが主な教材として使われます。この3種類のどれも使っていない先生は、いないと言っても過言ではありません。
しかしどちらも半世紀以上前に編纂された教材で、収録曲もドイツ系の古典中心です。新しい意欲的な教材はぽつぽつ出るものの、これらに取って代わるものは今だにありません。
「新しいバイオリン教本」は1964年に出版。2020年に初めて新版が出て、見た目や解説が読みやすくなりましたが、内容は変わっていません。
「スズキ」が出版された正確な年は不明。その後 曲の表現などに改訂を加えた第二版が、1998年より順次出版されてゆきましたが、基本的な内容は変わっていません。
我がバイオリン教室の伴奏ピアニストmomo先生は、しょっちゅう新しい教本を買っているようです。尋ねてみると、新しい教材はどんどん出てくるから常にチェックが必要、とのこと。バイオリン界を振り返ると十年一日のごとく、
●メインの教本は、スズキか新しいバイオリン教本
●基礎練・エチュードは、カイザー・セヴシック・クロイツェルetc
です。
ABRSM課題曲集が 日本でバイオリンレッスンの教材として選択されないのは、知名度の低さが一番の理由でしょう。また私のようにその存在と良さに気づいても、4年ごとに選曲が一新されると、4年ごとに買い直さなければなりません。せめて10年くらいは使いたいな~。
スズキの教本は全世界で使われており、海外からの帰国子女が英語版のスズキの教本を持ってくることもあります。先生としては、先生側が変わる必要がないので、楽です。
ABRSMの検定試験では、一世代前の課題曲も選択できるようです。古い課題曲集も売っています。