奈良の弦楽器工房へ、ビオラの毛替えと調整に行ってきました。奈良市富雄にある 岸野弦楽器工房。近鉄の富雄駅から徒歩数分です。奈良県にあるバイオリン・ビオラ・チェロ専門の弦楽器工房は、ここだけらしいです。 
私のビオラは、楽器も弓もイーストマン初期のもの。重たくて反応が遅いのがストレスになっていて、軽くなる方向で、とお願いをしました。

♪ 弓の毛替え

反応を上げるため毛量を少し減らしてもらいました。毛量を減らしたところで大して変化はないのですが。スティックの腰を弱くしたい場合は、逆に毛量を増やします。

馬毛はイタリア産のルッキにしていたのですが、こちらの工房にはなかったので、ルッキと同グレードのカナダ産ソーデンというものを張ってもらいました。
バイオリン弓も一度ルッキが無かったとき、同グレードの他の毛にしてもらったことがあります。その毛の弾きごこちは並グレードくらいにしか感じられなくて、遠方の工房まで行ってルッキに張り直してもらいました。
今回のビオラ弓もその心配がありましたが、それ以上に一度岸野さんに頼んでみたいと考えていたため、トライしてみました。帰宅して弾いてみた感じではそう悪くなさそうです。

♪ 弦高の調整

買ってから20年、毛替えと点検以外はメンテナンスせず使っていました。(バイオリンに投資して、ビオラは節約) そのため指板が下がって弦高が開いていました。そういえば弾きにくいと思っていました。何年もかけて少しづつ開いてゆくのでなかなか気づかないもんです。標準より少し(0.5mmくらい)低めになるよう削ってもらいました。

弦高とは、指板から弦までの高さのこと。幅が広いと、大きく張りの強い音が出せます。狭いと、押さえやすく優しい音になります。

弦の幅をどうするか尋ねられましたが、これまでと同じ、標準よりわずかに狭い状態にしてもらいました。駒の高さを削るということは、弦の幅も削りなおすので、再設定できるのです。
バイオリンは欧米男性が固定化したサイズ。弦高も弦幅も、少し狭めが私の手のサイズには扱いやすいです。そういえば買ったとき、ネックを少し削ってもらったのを思い出しました。それでも私の手には、ビオラのネックは太いなあと感じますが。。

A線の当たるところに象牙が埋め込んであり、駒の厚みは厚めに仕上がりました。薄い方が鳴りやすいのですが、厚い方が歪みにくくなります。一長一短です。

A線は4弦のなかで一番テンションが強く、徐々に弦が駒に喰い込んできます。一般的に透明の薄い皮を貼ることが多いのですが、象牙を埋め込む職人さんもいます。私の教室でも、生徒さんに応急的に貼ってあげることがあります。老舗のバイオリン工房丸一で、皮を分けてもらい、貼り方を教えてもらいました。
最近海外では黒檀(こくたん)を埋め込んだりするそう。黒檀はバイオリン・ビオラに使われる木のなかで最も硬いものです。だから最も摩耗する指板に使われています。

安い楽器は、弾いていると指先が黒ずんできます。茶色い黒檀に、黒色を塗っているのです。木は黒い部分のほうが硬く、黒檀にも黒くないところがあるのです。

♪ 駒と魂柱の位置調整

駒とナットの間を「弦長」といいますが、私のビオラは「弦長」が長め、「駒~テールピース」が短めになっていました。駒の位置を少しナット寄りに変えてもらい、それに合わせて魂柱もずらしてもらいました。

「弦長」と「駒~テールピース」の比率がきれいに6:1になっていると楽器の響きが良くなります。私のビオラサイズは39.5のやや小さめなので、弦長を確保するためわざとそう調整した、ということも考えられます。
弦長が短いとテンション(弦の張り)がゆるみ、弱くて優しい音になり、扱いやすくなります。張りを高めると、大きくて強い音が出ますが、反発が強くなり引っ掻きづらくなります。

♪A線のアジャスター

ビオラのA線についているアジャスターについて、前々から疑問だったので尋ねてみました。バイオリンにはヒル型があるのに、何故ビオラはL型しかないんでしょうか?

まず、弦の端の形状(ループかボールか)と、アジャスターの形状はセットであること。ビオラのA弦にループエンドが存在しないのに、ヒル型を作ってもしょうがない。(それは私も気づいていました。)

また、L字型アジャスターだとA線の「トータルの弦長」が短くなり、テンションがゆるくなる。A線のテンションがゆるい方が、楽器にかかる負担の左右差を減らせるという側面もある、とのことでした。